笑顔が輝く在宅医療を ドキュメンタリー映画「結びの島」 高齢者の心に寄り添う

2020年11月25日 07時17分

映画「結びの島」の一場面で、往診の患者を笑わせようとする岡原仁志さん(右) (C)ディンギーズ

 「思いやり、笑顔、ユーモア」をモットーに、ユニークな在宅医療をしている山口県・周防大島の医師、岡原仁志さん(60)を描いたドキュメンタリー映画「結びの島」が全国で順次公開されている。お年寄りが最期まで自宅で心穏やかに暮らせるように−。二人に一人が高齢者という島で、岡原さんが実践する医療や福祉は、国が進める「地域包括ケアシステム」の一つの姿でもある。 (五十住和樹)
 「今日の注射はね、きれいな人とか、かわいい人はあまり痛くないの」。岡原さんの言葉に、高齢の女性が恥ずかしそうに笑う。映画では、患者を楽しませようと、岡原さんがだじゃれや冗談を繰り出す日常の診療風景が続く。

四つ葉のクローバーの押し花を手にする岡原仁志さん

 経営する診療所の朝礼で、岡原さんは「ここに来た日が幸せだったと感じてもらえるよう、皆さん笑顔で、ありがとうという思いで」と職員に伝える。「ようこそいらっしゃいました」と患者を迎え、自分で育てた四つ葉のクローバーを押し花にしてプレゼント。医療の場とは思えない明るい雰囲気なのは、「患者さんが緊張する場所である診療所を楽しい思い出になるようにしたい」からだ。
 その姿勢は、自宅で療養する高齢者宅への往診でも変わらない。寝たきりの女性に録音しておいた波の音を聞かせたり、バルーンアートを作ってベッド脇に置いたり。患者や家族とハグをするなど独自のコミュニケーションも実践する。「心と心を結び、寄り添うことで医療効果が高まる」と岡原さん。映画では、がんを患う高齢女性のみとりを支える場面もある。
 高齢者が住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らせるようにするため、国は住まいや医療、介護などのサービスを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の実現を目指している。岡原さんは廃校になった高校の校舎でサービス付き高齢者住宅やデイサービス、グループホームなどの複合施設も運営。島の地域包括ケアの一端を担っている。
 映画の監督を務めた溝渕雅幸さん(58)=写真=は「人生の最後に与えられた一日一日を心穏やかに家族と共有する。それを医療者がどう支えるかを記録したかった」と話す。ホスピス病棟や在宅医療など「いのち」をテーマに撮ってきたドキュメンタリー映画の三作目。「医者は病気だけを診るのではない。在宅医療では患者の家族をどう援助するかが重要」と言う岡原さんに共感するという。
 島の高齢化率は54・2%。飛び抜けて高いように思うかもしれないが、実は全国の中山間地も似たような状況だ。ホスピス財団理事長で大阪大名誉教授の柏木哲夫さん(81)は「高齢化が進み、どこで死ぬかはものすごく大きな課題。だが国民の多くが望む在宅死は少ない」と指摘。「政府が責任を持って在宅医療の充実を進め、在宅でのみとりを医学教育で重視して教えるなど、医学界全体で取り組む必要がある」と話す。
 映画は名古屋市の名古屋シネマテーク、イオンシネマ名古屋茶屋、愛知県豊川市のイオンシネマ豊川、滋賀県近江八幡市のイオンシネマ近江八幡で上映中。津市のイオンシネマ津、金沢市のイオンシネマ金沢では二十七日から、東京都新宿区の新宿ケイズシネマでは来年一月九日から、横浜市の横浜シネマリンでは同十六日から上映が始まる予定。

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