ITジェンダーギャップは中学・高校で生まれる? 女子に特化した教室が未来を開く

2020年11月26日 18時00分

★40代の記者が思い立ってプログラミング学校に通った経験とともに、「女性×テック」をテーマにIT業界の動きや課題を探っていきます。毎週木曜夕方に配信します。

<アラフォー記者の探検テック>③

◆先生役も若き女性エンジニア

 8月半ばの週末、オンライン会議システムのZoom上に、全国の高校生と若手のITエンジニアら、女性ばかり20人ほどが集まった。一般社団法人「Waffle(ワッフル)」(東京都渋谷区)が今夏始めた中学・高校生の女子限定のプログラミング教室だ。
 コードを書くためのHTMLファイルの作り方から始まり、自分なりのウェブサイトに仕上げ、コードを共有するプラットフォーム「GitHub(ギットハブ)」に上げるまで、生徒2人にメンター1人が付いて丁寧に教える。メンターを務めるのは、企業で働くエンジニアや、大学でシステム工学を学ぶ20~30代の女性たち。
 教わったコードを1行ずつ書き足すごとに、真っ白だったページに文字や画像が現れ、色や大きさがぱっと変わる。画面越しの高校生たちも笑顔になった。
 「プログラミングかっこいいな、自分もやってみたいなと思っていた」という京都府の高校2年、田中里奈さんは「(コードは)英語が並んでいるだけなのに、それが形になるのが面白い」といっそう興味が膨らんだ様子。女子校で、周りにITに詳しい人がいないと嘆いていた埼玉県の高校2年山崎葵彩あおいさんは「ITで自分の好きなことを追求できるのかなと思いました」と感想を話した。

8月半ば、Zoomで行われたWaffleのプログラミング教室

◆小学校との違いを目の当たりにして

 Waffleが対象を女子中高生に特化していることには、明確な狙いがある。
 代表理事の田中沙弥果さん(29)は大学卒業後、小学校のプログラミング必修化にあわせて教員のプログラミング技術を支援するNPOで働いていた。研修で訪れた小学校では、男子も女子も差異なくプログラミングを楽しんでいたという。ところが、中高生向けのイベントに足を向けると一転して女子の姿が減り、参加者のほとんどが男子という光景を目の当たりにした。「IT業界の女性の少なさは、中高時代から始まっているんじゃないか」。そんな問題意識を持つようになった。
 では、なぜ女子は大学進学までにITから離れてしまうのか。家族、学校、社会でそれぞれの要因があると田中さんは考えている。

◆ステレオタイプで「女の子は文系なのかな」

 親は、息子には科学やプログラミングの講座への参加を促しても、娘に促す例は少ない。中高の理数系の女性教員は、3割程度にとどまる。女性のエンジニアは着実に増えてはいるものの、中高生に身近な存在とまではなっていない。「その結果、社会のステレオタイプに沿って『女の子は文系の方が向いているのかな』と思ってしまう」と田中さんは指摘する。2019年度の学校基本調査によると、大学生の45%が女子だが、理工学部では17.5%にとどまっている。
 女の子たちがステレオタイプやアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)をとらわれず、自分が好きなことを追求してほしい―。田中さんは2019年11月、Waffleを法人化。スタートアップ企業のデータサイエンティストだった斎藤明日美さん(30)も共同代表として加わり、IT分野の教育を通じた日本のジェンダーギャップ是正を目指す。

IT分野のジェンダーギャップに取り組む田中沙弥果さん㊧と斎藤明日美さん

 月に2~3回開催するオンラインのプログラミング教室では、ただコードを教えるだけでなく、IT分野で活躍する女性たちの生の声を聞く機会も提供している。「あの人みたいになりたい」と思えるロールモデルを見つけてもらいたいからだ。これまで教室やイベントに参加した中高生は300人余り。データサイエンティストへの道を目指し始めた子もいれば、専攻する福祉の分野でITを使って研究を進める大学生もいる。

◆NYの貸会議室から始まったムーブメント

 女子とプログラミングをつなぐ取り組みの先駆けと言えるのが、2012年に始まった米国のNPO「Girls Who Code(コードを書く女子たち)」。13歳から17歳の女子を対象に、放課後や夏休みに無償のプログラミング教室を提供している。現在、海外を含め約8500の地域クラブが活動し、延べ30万人が授業を受けた。
 同NPOによると、米国内では参加した女子が多い州ほど、学校の選択科目でコンピューターサイエンスを取る生徒の男女比が均等に近づくという結果が出ている。裾野を広げたうえで、次に目指すのは、新卒レベルのIT職のジェンダーギャップ解消だ。
 「ニューヨークの小さな貸会議室から始まった私たちのこのムーブメントは、産業全体をまったくもって変化させつつある」。2019年の年次レポートで、NPO創設者のレシュマ・サウジャニさんは、活動の意義を語っている。

◆ITは社会の基盤だからこそ急務

 学びの場でプログラミングが必修化され、暮らしを見渡せばAI(人工知能やIoT(モノのインターネット)が浸透し、政府はデジタル庁の設立を急ぐ。ようやく日本でも本格的なデジタル化が始まった今こそ「IT分野のジェンダーギャップをなくすことが急務」と田中さんは言う。「ITはこれから社会のあらゆる基盤になっていく。そこに女性の人材が欠けてしまっては、女性が生きやすい社会にはならない」と斎藤さんも力を込める。
 「プログラミングがもし楽しめないなら、それは先生や教材が悪い。自分に合うやり方は絶対ある。幅広くいろいろ触れて、探していってほしい」。中高生へのメッセージを最後に尋ねると、斎藤さんは力強く言い切った。Waffleで見えない障壁を取り払われ、こうして力をもらった女の子たちは、きっと5年後、10年後の日本の光景を変えるだろう。それを邪魔しないために、自分のような親世代の意識改革も同時に問われているのだと実感する。(小嶋麻友美)
次回(12月3日)は、女性特有の健康課題などを解決するテクノロジー「フェムテック」の行方を探ります。

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