子どもは製品ではない 『「生存競争(サバイバル)」教育への反抗』 京都教育大准教授 神代健彦(くましろ・たけひこ)さん(38)

2020年11月29日 07時00分
 記者が今年読んだ教育に関する本の中で、とりわけ刺激的な一冊。なるほどと思うページの角を折っていたら、いつしか折り目だらけになった。たとえば、カバーにある一文はこう。
 <どうやら企業人や政治家、官僚たちは、日本社会の低迷を教育で挽回しようとしているようだ。まるで、「最小限のコストで最高の商品(人材)を納品しろ」と言わんばかりである。そんな社会を生きる私たちの子育てや教育は、じつに悩ましい。なぜこんなにも苦しいのか>
 そう、と深くうなずく人もおいでだろう。本書は、現代の日本の親たちの子育てと教育に対する苦悩や、学校を取り巻く動きなどを詳しく分析。そこから、今のこの国がいかに生きづらい社会となっているかを、明確にあぶりだしていく。教育を論じて、国のあり方までも問い直す好著だ。
 「これは世界中で行われていることですが」と神代さんが研究室で語る。佐賀出身の九州男児だが、穏やかな口調で説いていく。
 「イギリスでもアメリカでも新自由主義改革が行われ、その中でそれぞれの国は、教育を非常に強調しています。それは福祉を切り下げる代わりに教育を、ということなんですね。頑張る人にはチャンスを与え、頑張れない人には退場してもらおうと。でもやはり、教育というのは狙った通りにはいかない。子どもは、規格化された工業製品ではありません。人間を育てているんですから」
 新自由主義が企業だけでなく個人にも「弱肉強食」の社会を強いる今、人と人の分断が進み、格差が広がる。その中で学校や教師、親、子どもに、あまりに多くが求められていないか。学校はひどく緊張を強いられ、現場も家庭も疲れきっているのではないか−。
 <みんながみんな教育からそれぞれの利益を引き出そうと躍起になっても、そんな過剰な期待に引き裂かれた教育がうまく機能するとは思えない>と本書で書く神代さん。そうした懸念から「もうちょっと教育をゆるめよう」と提言する。
 「教育が高度になることと子どもが幸せになることは、また別だよね。そういうことを書きたかったのですね」。その幸せを目指す方策として「休日のための教育と教育学」を唱える。実に重要な提案だが、紹介する紙幅が尽きた。詳細はぜひ本書で。集英社新書・九四六円。 (三品信)

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