株式会社の世界史 「病理」と「戦争」の500年 平川克美著

2020年11月29日 07時00分

◆「無限の成長」から抜け出す道は
[評]斎藤幸平(大阪市立大准教授)

 株式会社とは何か。私たちは普段、そんなこともよく考えずに、株のニュースを毎日ぼんやり眺めている。
 定年までに二千万円貯蓄するよう政府に言われ、資産運用は人生設計の一部になっている。私たちの多くが、NISA(少額投資非課税制度)やFX(外国為替証拠金取引)で「個人投資家」なのだ。だが、実際には大した資産を持たない一般庶民が、あたかも経営者のように、毎日株価の上下をみて、一喜一憂するのは喜劇的でさえある。
 本来であれば、著者も言うように、人間の生とは、貨幣だけでは測れない。大切な目標は貨幣獲得以外にも数多くあるはずだ。だが、貨幣の絶対視を労働者自身が内面化し、勤労する現代日本社会は資本家にとって天国だろう。
 株式会社の本質は、経営と所有の分離である。利潤獲得を目指す限りで、経営者も株主も同じ利害関心を共有している。とはいえ、株主はあくまでも短期的な配当を求める。
 現代のような長期停滞を克服するには、長期的なビジョンの改革が必要になる。だが、株主は短期での利益ばかりを求める。それが企業をコストカットという小手先の対策に駆り立て、それが不祥事を生み出す悪循環を生む。株式会社はかつてのような発展の起爆剤ではなく、成長の阻害要因になっているのではないか、と著者は危惧する。
 本書が扱う「株式会社の世界史」は五百年間。株式会社の起源は四百年前の東インド会社であり、残りの百年は二十一世紀の未来を描く。
 その未来を特徴づけるのが、「文明史的供給過剰」である。供給過剰が慢性化すれば、株式会社を要請した大量調達・大量生産のビジネスモデルはそもそも成立しなくなる。
 株式会社は無限の成長を前提とし、それにブレーキをかけることができない。限界を迎えてもなお、旧来のやり方にしがみつくことが「株式会社の病」を深めている。著者が予測するその先に待つ未来の姿は暗い。過剰供給解消のための戦争という最悪の事態を防ぐためには、無限の経済成長という資本主義の呪いから抜け出すしか道はないのだ。
(東洋経済新報社・1980円)
1950年生まれ。文筆家、「隣町珈琲」店主。著書『移行期的混乱』など。

◆もう1冊

セルジュ・ラトゥーシュ著『脱成長』(文庫クセジュ)中野佳裕訳。

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