大学へのPCR検査拡充補助金、利用わずか12% 的外れな文科省

2020年11月29日 05時50分

新型コロナウイルスの検査に協力している東京薬科大のPCR機器=東京都八王子市で

 新型コロナウイルス感染症のPCR検査を拡充しようと文部科学省が、検査に協力する大学向けに設けた補助金の利用が低調だ。文科省は5億円の予算を組んだが、これまでに補助が決まったのは、見込んだPCR検査機器台数(約900台)のうち、113台(12.5%)にとどまる。大学での安全設備や検査技師の確保などが難しいためで、専門家は「文科省はPCR検査への理解が不十分で、実態とニーズを見誤った」と指摘する。(増井のぞみ)

◆大学、安全面や技師不足で申請できず

 大学では、PCR機器が生物学や医学、薬学などの研究に使われている。補助金は、大学が検査機関から検体の分析を請け負うとPCR機器1台あたり100万円まで、検査機関にPCR機器を貸し出すと1台50万円までを受け取れる。
 文科省は5月の事前調査で、大学のPCR機器総数は約3700台、協力が見込める機器は約900台とした。100台が検査の請け負い、800台が貸し出されると見積もって5億円の予算を組んだ。公募は6月に開始。しかし、これまで2回の公募で補助が決まったのは30大学の113台にとどまる。
 本紙がPCR機器を持つ全国の25大学に取材すると、補助金を申請した大学は9校。申請していない16校は、理由として「安全設備や検査技師の不足」のほか「地方自治体や医療機関から協力を要請されていない」などを挙げた。

◆「協力できる大学は一部に限られる」

 大学への協力要請を見送った東京都は「課題のある大学に無理にお願いするより、民間検査会社に依頼した方が効率的」と説明した。
 PCR検査に詳しい宮地勇人・東海大教授(臨床検査学)は「新型コロナの検査は精度と安全性が重要。協力できる大学は、普段から病原体を扱っている所など一部に限られる。大学の機器は新しい検査薬と相性の悪い旧式が多く、貸し出しも必ずしも効果的でない」と話す。
 新型コロナの感染拡大を受け、大学への補助金によりPCR検査拡充を目指した文科省だが、人員面など、現場の状況の把握に課題を残した。それでも文科省は今月、予定外の追加の第3次公募を始め、30日に締め切る。予算が余っており、第4次公募も検討中という。文科省の塩原誠志・学術機関課長は「大学のPCR機器は次の感染拡大に向けた予備役だ。教育研究と両立できる範囲で最大限協力してほしい」と呼び掛ける。

新型コロナウイルスの感染力をなくす前処理で必須となる「安全キャビネット」。中に手を入れて作業する=東京都八王子市の東京薬科大で

◆「防護設備がないことが決定的」

 大学の研究用PCR検査機器を使った、新型コロナウイルス検査が進まない理由の1つが安全設備だ。首都圏のある国立大学の関係者は「病原体試料の取り扱いを前提とした設備ではない。防護設備がないことが決定的」と話す。
 新型コロナウイルスの感染疑いがある人の検体は、病原体を扱う実験室の4段階の基準で上から3番目の「バイオセーフティーレベル2」以上の施設で扱う。その基準を満たすには、内部の気圧を低くして病原体が漏れることを防ぐ箱形の実験設備「安全キャビネット」が必要になる。
 もう1つの理由は、技師の確保。検査に協力予定の大学は「教員が授業などの合間をぬって作業する必要がある。感染事故を想定し、大学院生の新型コロナウイルスの扱いは多くの施設で認められておらず、検査人員の確保が困難。しかし、大学としてできることがあれば協力していきたい」とする。

◆協力する大学も

 検査に協力している大学もある。東京薬科大学(東京都八王子市)は10月、市から新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)で感染者との接触通知があった人の唾液検体の受け入れを始めた。「バイオセーフティーレベル3」の実験室の安全キャビネットを使い、検体の感染力を失わせ遺伝子を抽出する前処理をする。その後、研究室へ移動しPCR機器を操作する。
 1回の検体の分析に約4時間かかる。教員4人が手分けしているが、中南秀将准教授(39)は「病原微生物の知識と扱いに精通しているので、安全に検査して正確な結果を出せる」と話す。東京医科歯科大学(東京都文京区)は、臨床検査の訓練を受けた教員が付属病院の院内感染を防ぐため、医療スタッフから定期的に採取される検体をPCR検査している。

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