逆輸入された美声、響け カウンターテナー・藤木大地

2020年3月31日 02時00分
 新型コロナウイルスの感染拡大がもたらしている甚大な影響は、日本の舞台芸術にも及んでいる。国際的に活躍しているオペラ歌手、藤木大地(40)=写真=は、女性のアルトの声域を男性が裏声で歌うカウンターテナーとして四月に新国立劇場(東京・初台)で“デビュー”となるはずだったが、公演中止となった。だが藤木には、この夏と秋にも「新国立」での大役が控える。澄み切って力強い藤木の歌声が暗い空気を追い払うか。 (矢島智子)
 藤木は同劇場オペラ研修所を二〇〇五年に修了後、欧州を拠点に活動し、一七年にはオペラの殿堂ウィーン国立歌劇場で東洋人初のカウンターテナーとしてデビューして話題になった。新国立デビューは研修生だった〇三年、「フィガロの結婚」で果たしているが、このときは男性歌手の王道テノール。その後、テノールとして行き詰まり、カウンターテナーに転向して花開いた“不屈のオペラ歌手”だ。四月に予定されていたバロックオペラの代表作、ヘンデルの「ジュリオ・チェーザレ」の公演中止にも「一舞台人としては無念です。一地球人としては早く健康な世界が戻るよう自分個人も努めます」と前向きなツイートを発信している。
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 カウンターテナーはこれまで日本で上演される定番のオペラにはほとんど役がなかった。だが欧州では、人気が復活したオペラ草創期のバロック時代(十七世紀初頭~十八世紀半ば)の演目と、一九六〇年代以降に書かれた新作で活躍の場が広がっている。バロックオペラはかつて主要な男性役を「カストラート」という、変声期を迎えないよう去勢された歌手が占めていて、今はその役を女性かカウンターテナーが担っているからだ。
 藤木は今回バロックオペラを歌う機会は逸したが、新国立の来シーズン幕開け公演となる十月の「夏の夜の夢」では妖精の王オーベロン役での主演が決まっている。二十世紀を代表する英国の作曲家ブリテンがシェークスピアの喜劇を基に作り、初演は一九六〇年。カウンターテナーがオペラで初めて大役を得た記念碑的作品として知られ、新国立では新制作の作品。
 「カウンターテナーの歴史上一番重要な役。その役に外国人を呼ぶのでなく僕に任せてくれたのがうれしい」と藤木。さらに演出のデービッド・マクビカーは、二年前に彼がウィーンで手掛けた舞台に控えで関わった藤木が「ほれ込んだ」という相手。「そのときは歌う機会がなかったから、いつか世界のどこかで彼の新制作で歌うことが目標のひとつになっていた。それがこんなに早く新国立でかなうなんて」と感慨深げだ。
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 藤木は八月にも、子どもも楽しめる創作オペラ「Super Angels スーパーエンジェル」に登場する。科学技術や共生をテーマに新国立オペラの芸術監督・大野和士が企画監修した作品で、世界初演。作家の島田雅彦が台本を、初音ミクのボーカロイドオペラなどを手掛けた渋谷慶一郎が作曲を担当。人工生命搭載アンドロイド「オルタ3」と、藤木の演じる十五歳の「落ちこぼれのアキラ」が物語をリードする。
 藤木の起用について大野は「彼の声がとても特別なのは、アクター(俳優)の次元までいっている人間性を表すカウンターテナーということ。逆輸入されるだけの才能の持ち主。『夏の夜の夢』はオーベロンに始まってオーベロンに終わる。藤木さんに魔法をかけてもらいたいと願いを込めて配役した」と期待を寄せる。
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 「Super Angels スーパーエンジェル」は八月二十二、二十三日。「夏の夜の夢」は十月四、六、八、十、十二日。会場はいずれも新国立劇場オペラパレス。
 新国立劇場ボックスオフィス=(電)03・5352・9999。

「夏の夜の夢」(ベルギー・モネ劇場公演より)

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