<介護で辞めない>(上)動くケアマネ 家族の離職防止も支援

2020年12月2日 07時16分
 「母の認知症が進み、自身も要介護者の父が介護に疲れ果てた。娘が老老介護を見かねて退職し、面倒を見ることに」
 「一人息子で協力者がおらず、両親の介護をするために退職した」
 「脳出血などで重度障害者の夫と暮らす妻。デイサービスなどを使って仕事を続けようとしたが、夫の介護拒否が強く、仕方なく離職した」
 いずれもケアマネジャー(介護支援専門員)が担当した家庭で目の当たりにした「介護離職」の実態だ。一般社団法人「日本経済調査協議会(日経調)」が二〇一八年、千葉県内の全ての居宅介護支援事業所を対象に行った調査で明らかになった。
 調査では、全体の41%に当たる七百八十三事業所のケアマネらが回答。うち30%が「利用者の家族で介護離職した人がいた」と答えた。家族の要介護状態が悪化して離職を強いられた人や、要介護者が介護サービスを拒んだために「自分がやらなきゃ」と丸抱えして離職した人も。原因となった疾患では認知症が多数を占めた。
 一方で、介護離職があったとしたケアマネのうちの約四割は「働き方を変えたら防げた」と指摘。職場の理解と支援の大切さも浮き彫りになった。「(介護サービスや地域の支援など)多くの協力態勢をケアマネと構築することも必要」との意見もあった。
 ケアマネは介護サービスの利用計画書「ケアプラン」の作成など、要介護者本人の支援が本来の業務だ。しかし、介護する家族の深刻な状況に直面したためか、「介護離職防止はケアマネの役割」と考える人が89・4%に上った。
 こうした中、ケアマネの全国組織である一般社団法人「日本介護支援専門員協会」は来年度から「ワークサポートケアマネ」の養成に乗り出す。仕事と介護の両立に悩む人の相談に乗り、助言などを行う専門家だ。同協会が一定の研修を終えたケアマネを認定・登録し、企業に派遣していく。
 「介護離職は社会問題。要介護者の家族の支援もケアマネに求められている」と、同協会副会長の七種(さいくさ)秀樹さん(55)は強調する。研修では、働き方などの企業のニーズや介護をする家族の心理、社会保険労務士との連携などを学び、家族全体を支えていくための知識と技術を身に付ける。
 国もケアマネに介護離職を防ぐ役割を期待する。一八年からの介護保険事業計画の基本指針に、介護離職防止に向けたケアマネの資質向上を明記。五年ごとの資格更新研修の演習にも家族支援を加えた。
 ただ、多くのケアマネは一人で大勢の利用者を担当。「要介護者の家族に向き合う余裕がない」との声も少なくない。日経調の調査でも「家族問題に介入する責任は持てない」「ケアマネに丸投げしすぎ」との声が上がった。
 調査の中心となった淑徳大(千葉市)教授の結城康博さん(51)は「家族支援のケアマネジメントが出てきたのは一歩前進」と指摘。家族支援を介護保険の給付対象にするよう訴える。「要介護者の支援と同時に、家族介護者への支援がどれだけ浸透するかが離職防止の鍵だ」
 ◇ 
 家族の介護のために仕事を辞める人は年間約十万人に達している。収入源をなくし、精神的にも苦境に陥る人が少なくない。会社を背負う社員の離職は痛手で、介護離職の防止に取り組む企業も増え始めた。介護離職の今を考える。 (五十住和樹)
<介護離職の現状> 総務省の2017年就業構造基本調査によると、介護をしている雇用者は300万人。16年10月から17年9月に「介護・看護のため」離職したのは9万9000人で、うち7万5000人が女性だった。ダイヤ高齢社会研究財団が今年8月に公表した調査では、50代正社員の36・4%で実の親が要介護になった経験があった。また、親が重い要介護状態になった場合、40代と50代正社員の26・1%が「離職する可能性がある」と答えた。

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