「世界最悪」レベルの事故の後始末は終わってないが…東京電力が柏崎刈羽原発を動かしたい理由

2020年12月2日 11時00分
 原発事故の後始末を終えていない東京電力が、再び原発を動かそうとしている。新潟県柏崎市と刈羽村にまたがって立地する柏崎刈羽原発。再稼働のために巨額の事故対策費を投じ、「福島第一原発の廃炉に必要な資金確保」と目的を掲げる。新潟県による福島第一原発事故の「三つの検証」は2021年中には終わる見込みで、再稼働に向けた地元手続きが一気に進みかねない。(小川慎一)

新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の6号機(右)と7号機

◆「廃炉のため」という理屈 1基稼働で900億円の収益改善

 新規制基準に適合した柏崎刈羽原発6、7号機のうち、7号機は再稼働に必要な原子力規制委員会の審査を一通り終えた。東電は年内に7号機の事故対策工事を終え、21年春には原子炉に核燃料を装塡そうてんすることを検討している。
 東電が再稼働を急ぐのは、22兆円と試算される福島第一原発の事故収束と賠償費用を確保するためだ。7号機の再稼働で、火力発電で使う石炭や天然ガスなどの化石燃料費を浮かせて年間900億円ほどの収益改善を見込む。
 ただ、柏崎刈羽の事故対策費用は巨額で、1兆1690億円かかる見通し。さらに柏崎刈羽で新たな事故が起きれば、福島事故で巨額の負債を抱えている東電にとって、事故収束や賠償への追加負担に耐えられる余力はない。

◆規制委「東電に資格あり」も 東電は約束守れる?

 原発事故の当事者の東電に、原発を運転する資格はあるのかー。規制委は他の電力会社とは異なる「東電スペシャル」(更田豊志ふけたとよし委員長)という対応をしつつも、「資格あり」と判断した。新基準の審査終盤には東電経営陣との面談で、原発の管理手順などをまとめた保安規定に事故への姿勢を明記することを条件として求め、約束させた。

2017年9月、原子力規制委の定例会合で発言する東京電力の小早川智明社長(左端)。右端は田中俊一委員長(当時)=東京都港区

 東電は「廃炉をやりきる覚悟を示す」「廃炉資金を確保した上で柏崎刈羽の安全性を向上する」「経済性より安全性追求を優先」など7項目を明記。適切な対応を怠れば社長が刑事責任や損害賠償責任を負うとする弁護士の意見書も付け、要求を丸のみした。
 保安規定に違反すれば、運転停止というペナルティーもあり得る。ただ規制委には、東電が約束した7項目の順守状況をどう把握し、違反の有無をどう認定するのかという課題がある。更田委員長は8月26日の記者会見で「社会の期待と検査の間にギャップは生まれてしまうかもしれない」と述べるにとどめた。

◆立地2市村の首長は再稼働「容認」 知事どう判断?

 原発の再稼働には地元自治体の同意が必要だ。原発がある刈羽村の品田宏夫村長は11月15日の選挙で6選を果たし、再稼働容認の意向を示している。「条件付き再稼働容認派」の柏崎市の桜井雅浩市長も同日の市長選で再選し、東電には追い風となった。
 しかし、地元同意の議論が始まる見通しは立っていない。新潟県の知事は「福島事故の検証」を再稼働の議論の条件と位置付けてきた。自民党の支援を受けて当選した現職の花角英世知事も継承する。
 新潟県では有識者による独自の「三つの検証」が続いている。事故原因については「技術委員会」が10月に報告書をまとめた。残る福島事故の健康や生活への影響と、避難計画の実効性を検証する二つの委員会は議論開始から3年が過ぎており、21年中に結果がまとまる可能性が高い。
 花角知事は三つの検証結果が出そろった後に、再稼働の可否を判断する方針。「県民の意思を確認するプロセスが必要になる」としているが、具体的な方法(例えば、県民投票の実施)は未定だ。
 一方、原発30キロ圏の8市町の議員らは8月、立地自治体に限られている同意の対象を広げるよう、各首長に求めるために研究会を設立した。ただ、立地自治体の2市村の首長が再稼働を容認する姿勢で、「地元」の範囲拡大の実現は相当ハードルが高い。

東京電力柏崎刈羽原発。手前から5号機、6号機、7号機、奥側の手前から4号機、3号機、2号機、1号機

◆三つの検証を進める委員

検証総括委員会(7人、◎は委員長)】◎池内了・名古屋大名誉教授、中島健・京都大複合原子力科学研究所副所長、藤沢延行・新潟大名誉教授、鈴木宏・新潟大名誉教授、松井克浩・新潟大教授、関谷直也・東京大院情報学環総合防災情報研究センター准教授、佐々木寛・新潟国際情報大教授
事故原因を検証した技術委(15人、◎は座長)】◎中島健・京都大複合原子力科学研究所副所長、小山幸司・三菱重工業原子力セグメント機器設計部長代理、佐藤暁・マスター・パワー・アソシエーツ副社長、杉本純・元京都大院教授、鈴木雅秀・長岡技術科学大院特任教授、鈴木元衛・元日本原子力研究開発機構安全研究センター研究主幹、立崎英夫・量子科学技術研究開発機構量子医学・医療部門高度被ばく医療センター副センター長、立石雅昭・新潟大名誉教授、田中三彦・科学ジャーナリスト、田村良一・新潟工科大教授、橋爪秀利・東北大院教授、原利昭・新潟工科大名誉教授、藤沢延行・新潟大名誉教授、山崎晴雄・東京都立大名誉教授、山内康英・多摩大情報社会学研究所教授
健康と生活への影響の検証委(9人、◎は委員長)】<健康>◎鈴木宏・新潟大名誉教授、青山英史・北海道大院教授、秋葉澄伯・鹿児島大名誉教授、木村真三・独協医科大准教授、中村和利・新潟大教授 <生活>丹波史紀・立命館大教授、松井克浩・新潟大教授、松田曜子・長岡技術科学大准教授、除本理史・大阪市立大院教授
避難方法の検証委(9人)】◎関谷直也・東京大院准教授、江部克也・長岡赤十字病院救命救急センター長、大河陽子・さくら共同法律事務所弁護士、上岡直見・環境経済研究所代表、佐々木寛・新潟国際情報大教授、佐野可寸志・長岡技術科学大教授、沢野一雄・総合防災ソリューション危機管理業務部長、清水晶紀・福島大准教授、山沢弘実・名古屋大院教授

東京電力柏崎刈羽原発 1~7号機の全7基で総出力約821万キロワットは世界最大規模。福島第一原発と同じ沸騰水型という発電形式の軽水炉。東電は2013年9月に6、7号機の再稼働を優先し、原子力規制委員会に審査を申請。両基は17年12月に新規制基準に適合した。避難計画の策定が義務付けられている原発30キロ圏の9市町村には、約44万人が住んでいる。

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