数分の映像が同級生の運命変えた…野球部マネジャーの内緒の動画で無名選手がヤクルトにドラフト指名

2020年12月3日 20時21分

俊足を武器にプロ指名を勝ち取った並木秀尊選手=東京都昭島市で(独協大提供)

 わずか数分の映像が、同級生の運命を動かすとは思いもしなかった。独協大(埼玉県草加市)の硬式野球部マネジャーだった上田樹さん(22)は昨秋、チームが誇るスピードスター、並木秀尊選手(21)の俊足ぶりを1本の動画にまとめ、大学日本代表候補に推薦した。すると無名の外野手は一躍プロ野球スカウトの目に留まり、今秋ついに大学初のドラフト指名選手に。陰の立役者は「自分の仕事が報われて良かった」と喜ぶ。(近藤統義)

「まさか同級生がプロ入りするとは」と喜ぶ上田樹さん=埼玉県越谷市の独協大練習場で(近藤統義撮影)

◆1通のメールに淡い期待

 「うちの大学には関係ないかな」。昨年10月、全日本大学野球連盟から届いた1通のメール。目を通した上田さんはそう思った。翌月から始まる大学日本代表選考合宿への推薦選手の募集だった。
 独協大が所属するのは首都大学リーグの2部。注目度は決して高くない。前年まで応募したこともなかった。一方で「並木のスピードは断トツ。もしかしたら…」。そんな淡い期待も浮かんだ。亀田晃広監督に相談すると、「2部だからって応募しちゃいけないことはないよな」。その場で答えは決まり、上田さんはすぐに参考資料となる動画の作成に取りかかった。

◆武器の「足」 いかにアピールするか

 盗塁に二塁打、さらに二塁手正面のゴロを内野安打にした場面も。並木選手の武器である「足」をどれだけアピールできるか。過去のスコアブックを見返し、印象的なプレーを集めた。
 本人に内緒で進めた賭けは見事に当たった。並木選手は50人の参加メンバーに選ばれ、合宿では50メートル走のタイム計測で5秒32のトップに。「それまでいなかったスカウトやマスコミが練習も見に来るようになった」。その対応に追われた上田さんは、練習量を増やすなど一段と野球に打ち込む並木選手の変化を感じ取った。
 そして約1年後、今年10月のドラフト会議。両親と同じ教師を目指して大学に入ったはずの並木選手は、東京ヤクルトスワローズに5位で指名された。並木選手は「プロは幼いころからの憧れではあったけど、選考合宿をきっかけに注目されるようになり進路が大きく変わった。結果的にこういう形になって良かった」と喜び、あいさつに訪れたスカウト担当者も「選考合宿で見て、足の速さに衝撃を受けた」と舌を巻いた。

◆「マネジャー冥利に尽きます」

 上田さんも故郷の福島県矢吹町で5歳から高校まで白球を追いかけてきた元球児。「大学野球のレベルでプレーはできない」と選手を断念しただけに、身近な仲間のプロ入りは「不思議な感覚」という。10月でマネジャーを退き、来春からは東京都内の企業で社会人として歩みだす。仕事帰り、神宮球場で自慢の同級生が疾走する姿をスタンドから応援するのが今から楽しみだ。
 もしあの動画を送らなかったら―。「あれが人生のターニングポイントになった」。並木選手が取材に対し、そう口にしていたと人づてに聞いた。「マネジャー冥利みょうりに尽きますが、自分にできることをしただけ。面と向かって感謝されても恥ずかしいので」。裏方らしく、控えめな照れ笑いを浮かべた。

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