#MeToo 運動がIT市場を変えた 女性の健康に着目した「フェムテック」が勢いを増す理由

2020年12月3日 18時16分
<アラフォー記者の探検テック ④>
 近年、欧米を中心としたIT業界で勢いを増している分野がある。女性(female)とテクノロジー(technology)を掛け合わせた「フェムテック(femtech)」。月経や妊娠、乳がんなど女性特有の健康問題を、テクノロジーを使って解決するサービスや商品のことを指す。2025年には世界で約5兆円の市場規模になるとの試算もある。日本でも急速に浸透しつつあり、その作り手の多くは女性たちだ。
 今年春にベータ版を公開した「wakarimi(ワカリミ)」は、女性の更年期症状に注目し、カップルのコミュニケーションを助けるサービス。スマートフォンのLINEアプリで、ワカリミを介して女性がその日の体調を文章やスタンプで書き込むと、パートナーに共有される。週、月ごとの体調レポートが男女双方に送られるほか、夫婦関係をスムーズにするためのアドバイス、2人で行うワークショップも配信される。利用料はカップルで月1500円(税抜き)。

LINEを使ったワカリミのサービス。指示に従って、男性に伝えたいことを書き込む

女性のその日の体調などが、男性側のLINEに届いて共有される(いずれもワカリミ提供)

 女性が不調を感じた頻度はデータとして集積され、分かりづらい更年期の実態を数値として男性に理解してもらう仕組み。代表の高本玲代あきよさん(45)は「客観的な情報が示されることで、『自分も何かしなくては』という男性の行動変容につながる」と狙いを話す。

◆「しんどい」と言っても夫は分からない

 開発のきっかけは、高本さん自身が不調に苦しんだことだ。閉経前後の女性ホルモンの変化でさまざまな症状が現れる更年期は40代半ば~50代半ばが多いが、高本さんは40歳ごろから原因不明の疲労感に襲われた。病院を回っても「特に悪いところはない」と言われるばかり。「しんどい」と言えば夫は分かってくれると思ったが、夫の方はただ家事をサボっていると受け取り、夫婦仲も悪化した。
 医療に従事する友人に相談してようやく更年期と分かり、漢方などの治療とともに夫とのコミュニケーションの取り方を見直した実経験が、ワカリミのアイデアの源泉となった。更年期にまつわるフェムテック製品は今、最も熱い分野として注目が高まっている。

自身の更年期の経験をふまえてワカリミを開発した高本玲代さん=Zoomで

◆原動力は40~50代とミレニアル世代

 フェムテックという言葉は2013年、月経管理アプリを手がけるドイツの会社が使い始めたとされる。米国のフェムテックに詳しい大手コンサル「デロイト トーマツ ベンチャーサポート」のマネジャー、セントジョン美樹さんによると、17年ごろには定着し、この1、2年でヘルスケア市場の一分野を構成するほどに成長してきた。
 フェムテックが拡大した背景には、#MeToo運動によってあらゆる領域で女性の地位向上が大きな動きになってきたことがあるという。職場や社会でジェンダーギャップに耐えてきた40~50代の女性が「ジェンダー平等についてオープンに語り、実際に世の中を動かす力を持つようになったことが大きい」とセントジョンさんは指摘する。
 一方、米国の労働力人口の半分以上を占めるミレニアル世代は、男女平等を当たり前に受け止めてきた世代だ。「企業はミレニアル世代の価値観に合ったサービスを提供する必要があり、投資家もそこに目を向けるという循環が生まれている」とセントジョンさん。ミレニアルは子育ての時期にも重なることから、より良い人材を獲得するためにも、妊活などのフェムテックを福利厚生に取り入れる企業が増えてきたことも後押ししているという。

◆女性の起業の壁はエンジニアと資金

 ただ、急成長するヘルスケア分野全体の中では、フェムテックの占める割合はまだ小さい。「シリコンバレーもIT業界を支える投資家の世界も、意思決定に関与する女性が少なかったからです」とセントジョンさんは説明する。
 「女性が起業する時の大きな課題は、エンジニアの獲得とファイナンス」と高本さんも言う。更年期という実体験に基づくアイデアを、実際のサービスに具現化したのは、ITベンチャーuni’que(ユニック、東京都渋谷区)だった。女性の事業創出に特化した同社のインキュベーション事業「Your」では、発想段階のコンサルティングから始まり、エンジニアや資金を提供して事業を立ち上げ、子会社としての独り立ちまで全面的に支える。昨年8月の開始後、すでに数十件の応募があった。

◆女性ならではのアイデアを世の中に

女性に特化して事業創出を手掛けるユニックの若宮和男さん=東京都渋谷区で

 大企業で新規事業の創出に携わり、ユニックを立ち上げた代表の若宮和男さん(44)は「女性にしか見えないニーズがあるのに、意思決定者の男性に理解されず、事業案が通らない事例をたくさん見てきた」と振り返る。スタートアップ界を見渡してみても、プレイヤーの95%は男性だという。「女性ならではのアイデアを世の中に出す」という事業目的に絞ったのは、ジェンダーの偏りは課題である半面、潜在するニーズがあり、大きなビジネスチャンスでもあると考えたからだ。
 「自分がほしいものは自分でつくれる、というマインドセットを女性に持ってもらいたい」と若宮さんはユニックのミッションを語る。女性の発想を生かして、女性が生きやすい社会に。「フェムテックはあらゆるビジネスの変革の羅針盤にもなっている」とセントジョンさんは言う。フェムテックの可能性に関心は高まるばかりだ。(小嶋麻友美)

★40代の記者が思い立ってプログラミング学校に通った経験とともに、「女性×テック」をテーマにIT業界の動きや課題を探っていきます。毎週木曜夕方に配信します。

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