傍聴席にて/再審開始は/求めたもの

2020年12月4日 07時27分

山田雄之(35歳)社会部

◆傍聴席にて

 法廷が開く午前十時〜午後五時、休憩を除いて傍聴席でずっとノートを取る日もある。
 八月中旬以降、元法相の河井克行衆院議員(57)と妻の案里参院議員(47)の公判で、関係者の証人尋問や調書の内容を書き取るのに必死だった。
 だが、ペンが止まる場面が何度かあった。検察官が調書を読む声が小さく、ほとんど聞こえなかった。周囲を見ると、一般の傍聴人や他社の記者も耳に手を当て、顔をしかめていた。
 裁判が原則公開とされるのは、国民の裁判への信頼を確保するためと言われる。裁判官や当事者にさえ声が聞こえれば、いいわけではないはずだ。傍聴席まで届く声で話してほしい。

◆再審開始は

 「難しいところだよ」。一九六六年の静岡県一家四人殺害事件で死刑が確定し、第二次再審請求中の袴田巌(いわお)さん(84)の弁護団の一人がつぶやいた。
 静岡地裁は二〇一四年に再審開始を決定したが、東京高裁が決定を取り消し。弁護団が最高裁に特別抗告して、既に二年がたつ。「早く無罪にしたいから最高裁にすぐ再審開始を決めてほしい。けど万が一、認められなければ収監の恐れもある…」
 静岡総局に赴任していた一四〜一七年、釈放された袴田さんや姉秀子さん(87)をよく取材した。拘禁症を患いながらも徐々に穏やかな表情になっていく袴田さん。一緒に暮らす秀子さんが「巌がいる今が本当に幸せ」と話す姿を見てきた。
 二人を思い返すと、弁護人のつぶやきに、うなずくことしかできなかった。

◆求めたもの

 非正規労働者への退職金の不支給を巡る最高裁の訴訟で、原告の女性(70)に話を聞いた。駅の売店で十年勤めた女性が語気を強めたのは、退職金の不支給よりも、その扱われ方だった。
 会社に待遇改善を訴えると、担当者から「そんなにお金が欲しいなら、どうぞ兼業でもしてください」と返された。最後の勤務日には社員の誰からも「お疲れさま」の言葉がなく、退職慰労パーティーには契約社員だけが招かれなかったという。
 女性が会社に求めてきたのは「誠実さ」だと感じた。
 最高裁は十月、退職金不支給は「不合理とまではいえない」と訴えを退けた。彼女の思いが、少しでも晴れてほしかった。
<やまだ・ゆうじ> 愛知県出身。2010年入社。最高裁や東京地裁を担当。同業他社の妻と2歳の息子と離れ単身生活。週末に息子と会えばプラレールで遊ぶ。

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