悲しみ背負い 強く、明るく 「鬼滅の刃」心つかむ

2020年1月26日 02時00分

テレビアニメ版「鬼滅の刃」。主人公の炭治郎(左)と妹の禰豆子 (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 出版、エンターテインメントの世界では「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」が旋風を巻き起こしている。コミック、アニメが大ブレーク。その勢いは音楽や演劇、映画の世界にも波及し、快進撃が続いている。令和に出現したキラーコンテンツ、人々の心をとらえる秘密は-。 (酒井健)
 大正時代の日本。炭売りの少年、炭治郎(たんじろう)は、鬼に親弟妹を殺され、生き残った禰豆子(ねずこ)は鬼の血を浴びて鬼になった。妹を人間に戻す方法を探すことを決意した炭治郎は、鬼を追うため討伐組織「鬼殺隊(きさつたい)」の一員となる…。
 原作は吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)。二〇一六年に週刊少年ジャンプ(集英社)で連載が始まった。一九年四月にTOKYO MXなどでアニメ放送が始まると、コミックの売り上げも急伸。同月までの累計三百五十万部から昨年十二月には十八巻で二千五百万部に達した。テレビアニメは九月に終了したが、昨年の国内の各種動画配信サイトのアニメランキングで一位を獲得した。
 アニメ版を手掛けた「アニプレックス」の高橋祐馬プロデューサー(39)は「友情、努力、勝利というジャンプ漫画の王道を行く作品。単純な勧善懲悪ではなく、鬼も含めた登場キャラクターに、それぞれ哀(かな)しい過去があり、人物造形の深さがある」と人気の背景を分析する。
 作品は鬼が活動する夜の場面が大半。異形の怪物との戦いだけに、残酷な描写も少なくない。しかし、高橋プロデューサーは「炭治郎は家族思いで仲間思いの少年。その普通の少年が、修業を経て強くなる。背負った悲しさと同じ分量で、優しさや強さ、明るさを表現している」と話す。
 アニメは、原作独特の衣装の丁寧な再現やアクションシーン、場面ごとに作曲された多彩な音楽もファンを引きつける。LiSA=写真=が昨年大みそかの「NHK紅白歌合戦」にも出場し、オープニング曲「紅蓮華(ぐれんげ)」を披露。同じ声優、制作陣による劇場版「無限列車編」の今年の公開も決まっている。
 舞台化もされて、二十六日まで東京・天王洲の銀河劇場、三十一日から二月二日まで、兵庫・AiiA 2・5 Theater Kobeで上演。同二日午後五時からは、各地の映画館でライブ上映もある。

◆ヒロイン禰豆子 鬼になってもかわいい

 炭治郎の妹禰豆子は、第一話で鬼になる。人間の理性をある程度残し、鬼の超人的な能力を持つが、話すことができない異色のヒロイン。禰豆子役の声優・鬼頭明里(きとうあかり)(25)=写真=にキャラクターと作品への思いを聞いた。
 -禰豆子の魅力は?
 つらい境遇の子だけど、かわいそうすぎる感じではなく、鬼になっても小動物的なかわいさがある。でも、炭治郎たちと一緒に戦う場面では強い。魅力がたくさんある子だなと思う。
 -アニメではうなり声がほとんど。演技での工夫は?
 しゃべらないけど、いろいろな声の出し方がある。第一話では、本当に理性を失い、苦しむ感じの獣のようなうなり声。炭治郎たちと一緒に戦う時は、また違ったうなり声になるよう意識した。日常のリアクションの声もまた違う。
 -炭治郎をどう思う?
 心がきれいな、本当にいい子。敵の鬼にも同情できる優しさや、努力もできる強さがある。真っすぐな主人公で、こういうふうに生きられたらいいなと思う。
 -テレビアニメの反響は?
 どこに行っても「見てるよ」と言われ、ふだんアニメを見ない地元(名古屋市)の友達も見てくれた。「私あまりしゃべっていないんですけど」と答えると「でも、かわいかったよ」と言ってもらえる。大きい作品に関われて本当にうれしい。続き(の作品)で、もっとしゃべれたらいいな。

◆兄妹愛、「和風」魅力

「柱」と呼ばれる鬼殺隊の最高位の剣士たちと炭治郎(手前)(C)吾峠呼世晴/集英社

 漫画界で今、最も勢いのある「鬼滅の刃」。ヒット作品の系譜に照らすと、どんな特徴が見えるのか。戦後の少年漫画史などに詳しい森下達(ひろし)・創価大講師に深読みしてもらった。 (谷岡聖史)
 まず森下さんが注目したのは「和風」の要素だ。炭治郎ら鬼殺隊は、詰め襟の制服姿で日本刀を振るい、鬼と戦う。
 「週刊少年ジャンプでは1990年代から『るろうに剣心(けんしん)』『銀魂(ぎんたま)』など、和物アクションに一定の人気がある。洋服と刀の組み合わせは女性向けゲーム『刀剣乱舞(とうけんらんぶ)』にも見受けられます。女性人気という点では炭治郎と禰豆子の兄妹関係も見逃せない。恋人と違い、女性読者も安心して応援できる。『幽☆遊☆白書』の人気キャラ飛影、映画『男はつらいよ』など、妹との関係は戦後を貫く王道のモチーフです」
 和洋折衷のスタイルは大正時代という設定にも関わる。「大正デモクラシーやモダニズムのハイカラな魅力があり、明治や昭和と違って戦争などの激動を描かなくても済む。ファンタジーの舞台に選ばれやすい時代です」。一方で、少女漫画「はいからさんが通る」やゲーム「サクラ大戦」など過去の「大正もの」と比べ、「鬼滅-」には際だった新しさがあるという。「鬼殺隊も鬼も貧しさ、悲惨さを抱えていることです」。社会の底辺で育ったり、家庭に問題があったり、それぞれの事情が丁寧に語られる。
 作中の鬼は元々人間で、吸血鬼やゾンビのように人を襲って鬼を増やす。「人を食うことを選んだ鬼に理解を示しつつも、それを断固たる悪として指弾する健全さ。炭治郎が決してぶれない安心感がある」。人を食う、という暴力表現は「進撃の巨人」「約束のネバーランド」など、近年の人気漫画にも通じる。
 「現代の読者が感情移入しやすい形で貧困や不安を描いている。これまで蓄積されてきた格好良さを受け継ぎ、さらに最新型の暴力表現をジャンプらしい王道ファンタジーに取り込んだことが人気につながっているのではないでしょうか」

「鬼滅の刃」既刊分の一部が品切れしたコミック売り場。重版しても別の巻がすぐ売り切れ、なかなか全巻そろわないという=東京・神保町の書泉グランデで

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