表現するって面白い 『コロナ禍日記2020』を出版 川崎昌平さん(作家・編集者)

2020年12月5日 12時46分
 作家として自ら文章を書き、漫画も描く一方、編集者として刊行物制作を担う。二つの大学で非常勤講師も務め、東京芸術大出身のアーティストでもある。そんな多彩な自己表現手段をもつ川崎昌平さん(39)が、コロナ禍に直面して選んだのは「日記」だった。
 九月に出版された最新作『コロナ禍日記2020』(春秋社)は、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した三〜六月の記録だ。妊娠中の妻と生まれてくるわが子を守るため、「愚行を繰り返さないための規範にしようと」何を考え、したかを記そうとした。
 日記を「個人として最もポピュラーで手を動かしやすい表現のアウトプットの一つ」と説明する。手軽な表現と言えば、インターネットを利用することだが、誤りが許容されず、手堅い文章を書こうとする人が多いことが疑問だった。「以前書いたことを覆してもいい。それができるのが日記」と訴える。
 三月の『日記』には、外出自粛による「演劇の死」を懸念する劇作家の表明に対し、「演劇よ、死ね。家に籠(こも)ろう。私の妻と、妻のお腹(なか)にいる子どものために」と思いを率直に書いた。ただし、「今はそう思っていない。過去を否定できるのも日記の効用なんです」。
 埼玉県三郷市出身。全国有数の進学校・県立浦和高校時代は柔道部で汗を流した。太宰治や大江健三郎が好きで、文学を学ぼうと東京大を目指すはずが、現役では厳しいと模試でA判定だった東京芸大の先端芸術表現科を受けたら合格。「芸術には全く興味がなく、仮面浪人のつもりだったが、入学したら楽しすぎてやめられなかった」
 「何でも面白がっちゃう悪癖」から芸術の世界にのめり込み、大学院へ。二〇〇六年には雑誌「美術手帖」で「日本の新世代アーティスト108人」に選出された。とはいえ、それでは食べていけず、日雇いバイトをしながらネットカフェを転々とする生活に。その経験をまとめ、〇七年に著した『ネットカフェ難民』(幻冬舎新書)は一躍脚光を浴び、同年の新語・流行語大賞に選ばれた。
 その後、一一年の東日本大震災を機に働き方や人生について考え直す。三十路(みそじ)を迎え「ちゃんと働き、言葉に関わる生き方をしたい」と編集者を志望。幅広く携わりたいと、出版社などから実務を委託される編集プロダクションに入社した。「大正解だった。出版業界を下支えしている文化の一つと思うと楽しくて」
 初仕事は「ボーイズラブ漫画の写植のような作業」で、いきなりの徹夜。初めての体験ばかりでまたも面白がってしまい、チーム作業も含め一年で二十冊もの本を制作。この経験は後の編集者活動や漫画『編プロ☆ガール』(ぶんか社)など著作にも生かされている。しかし、無我夢中で働くうちに肉体が悲鳴を上げ、転職することに。一三年に出版社「フィルムアート社」に移り、現在は親会社の「コンセント」に勤める。
 この間、作家としても編集者としても新たな道筋を示してくれたのが、同人誌づくり。美術予備校の講師時代の同僚だった妻とのなれそめでもあり、手ほどきを受けた。毎年四、五回は即売会に参加し「もうライフワーク」と力を込める。即売会で知ったアニメーターの同人誌を編集者として書籍化して大ヒットさせたこともあれば、自らの同人誌が編集者の目に留まり、出版されたことも。若い世代には「表現する面白さを伝えたい。今の時代、同人誌など表現をアウトプットする方法は多いことに気付いてほしい」と語る。
 コロナ禍は続くが、『日記』は六月末、無事に長男が生まれたのを機に筆を置いた。自身の最大の変化は「近所付き合いが生まれたこと」だと振り返る。自宅を中心にした生活で、あいさつに始まり、身重の妻への配慮、お裾分けなど交流が深まった。「個人の価値観よりも地域の共同体の大切さを見直す時期なのではないかと感じた」という。
 最近は「優秀なのに自信がない学生の才能を見いだしたい」と教育熱が高まり、芸術活動への意欲も。ただ、「今は育児が最上位」と笑った。 (清水祐樹)

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