「労使」ではなく「協同」で働く 労働者の裁量、自律性を取り戻す<協同労働法>

2020年12月5日 14時36分
 労働者協同組合はスペインやイタリアで19世紀に始まり、米国でも広がりつつある。今、日本で法制化される意義は何か。大阪市立大大学院の斎藤幸平准教授は「現場の労働条件が悪化し経済的不平等が拡大する中、労働者が経営主体となる協同労働が広がれば、労働のあり方や生産の仕方を根本から変える可能性がある」と指摘した。(石川智規)

◆好きな仕事を選び、嫌なら辞める自由ある

 ―協同労働の意義をどう捉えているか。

斎藤幸平准教授

 「私たちは好きな仕事を選び、嫌ならば辞める自由がある。しかし、資本主義における企業の目的はあくまでも最大限の利益を出すことなので、労働者の意思を無視して命令を出し、生産性を上げようとする。つまり、私たちはどの企業のもとで働くかを選べる自由くらいしか与えられていない」
 「しかし労使関係を前提にしない、もっと別の働き方があるはずで、それが協同労働だ。必ずしも労使関係を前提とせず労働者自らが出資し、自分たちでルールを定め、何をどう作るかを主体的に決める。株主の意向に振り回されず労働者の意思を反映していけば、働きがいや生活の豊かさにつながるのではないか」

◆「営利目的でエッセンシャルワーク」は危険

 ―なぜいま協同労働に注目しているのか。
 「人類の経済活動が地球を破壊する『人新世』と呼ばれる時代に突入している。際限なき利潤追求が宿命の資本主義的な企業が、地球を破壊する構造は止められない。企業がSDGs(持続可能な開発目標)に取り組むといっても表面的だ。利潤第一ではない、環境や地域のための協同労働が重要になる」
 「社会に不可欠なエッセンシャルワークを営利目的でやるのは社会全体にとって危険で、協同労働の出番だ。例えば保育園がもうからないとき、人件費カットや突然の閉園で保育士や親を困らせる運営企業がある。協同労働であれば、労働者を守る道を探ることもできるし、簡単には撤退することもない」
 「しかも保育や介護といった協同労働になじみやすい分野は、二酸化炭素(CO2)も出さない。気候危機の時代に求められている働き方の可能性がここにはある」

◆コロナ禍で分かった「本当に必要な仕事」

 ―新型コロナウイルス感染拡大後の新しい生き方と協同労働の関係は。
 「コロナ禍で明らかになったのは、どういう仕事が社会にとって本当に必要なのか、ということだ。ゴミ収集が1週間止まれば、町はゴミだらけになる。ところが、エッセンシャルワーカーたちは、しばしば低賃金で長時間労働を強いられている。機械化できず、生産性が低い仕事とみなされているからだ。協同労働が、労働者の裁量や自律性を取り戻し、社会のために質の高い仕事を持続的に提供する場になってほしい」
 ―課題は何か。
 「組合に参加する人数が増えれば、決定する人、実行する人の距離が開き、主体的な意思決定が難しくなる。また、他の企業がコストカットを続ける中で組合の民主主義重視の運営は競争力では劣る。国や自治体が支援をできるかが鍵となるだろう」

さいとう・こうへい 1987年生まれ。ベルリン・フンボルト大哲学科博士課程修了。主な専門は経済思想。近著「人新世の『資本論』」(集英社新書)で資本主義システムの問題点を挙げるとともに、目指すべき働き方として協同労働に触れ、注目されている。

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