花袋と国電の祖 土屋武之さん

2020年12月8日 06時25分
 1904年8月の飯田町(現在の飯田橋付近)−中野間に始まり、同年末には御茶ノ水まで延びた甲武鉄道の電車運転は、路面電車ではない一般的な鉄道では初めてのもの。06年に国が買収し中央線となったため、「国電の始祖」とも呼ばれる。その頃に使われていた電車は、大幅に改造された姿ではあるが、現在も松本電気鉄道ハニフ1=写真=として、さいたま市の鉄道博物館に残っている。
 07年に発表された田山花袋の短編「少女病」は、まさに代々木−御茶ノ水間を走る電車が主な舞台だ。主人公は花袋本人がモデルの37歳の編集者、杉田古城。御茶ノ水では先日、お茶の水橋上の工事現場で廃レールが発見され話題となった市電外濠(そとぼり)線に乗り換えて、神田錦町の雑誌社まで通っていた。
 十分すぎるほどの中年男だが、杉田は車内で美少女を愛(め)でることを病的なまでに好んだ。私生活をありのままに書く自然派の作家らしい、生々しい描写が続く。中でもまれに出会う、信濃町で乗り降りする令嬢への憧れは崇拝の域に達していた。しかし帰宅時に偶然、彼女に出会い、のぼせたあげく、超満員の電車から振り落とされてしまう。当時の乗降口は吹きさらし。扉はなかった。

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