最強夫婦、世界一への一本 スポーツチャンバラ 永井五月・将史

2020年12月9日 13時00分

練習を再開した五月。152センチの小柄な体で長身の将史に斬り込む=千葉市美浜区で

 遊びのチャンバラごっこと身を守る護身道が融合し、約50年前に日本で誕生したスポーツチャンバラ(略称スポチャン)。今や世界38カ国に普及する人気競技となったが、本家・日本をけん引するのが絶対女王の永井五月(28)=旧姓・野村=だ。夫の将史(30)も元世界王者。コロナ禍で今年は大会が軒並み中止になったが、最強の夫婦は競技と普及のトップランナーとして走り続ける。
 9月に第一子を出産した五月は、11月から将史と一緒に自宅のある千葉市内で練習を再開した。激しい打ち合いが続く練習場の隅っこで、長男の将太朗ちゃんがすやすや眠る。泣き始めると、練習を中断し、満面の笑みであやす。
 高知に住む五月の母親もスポチャン元世界3位のトップ選手だった。母の練習に連れていかれた五月は、1歳の時から剣を握っていた。「母が私にしていたことを、今度は私が息子にしている」と笑う。

昨年の全日本選手権大会の開会式で模範試合をする将史(日本スポーツチャンバラ協会提供)

 スポチャンはゴムチューブに空気を入れた「エアーソフト剣」で打ち合う。剣道のように一本を取って勝負を決めるが、頭から足までどこを打ってもいい。
 「打突(だとつ)」と呼ばれる試合は、小太刀(60センチ)、長剣(1メートル)、槍(やり)(2メートル)など用具の種類によって13種目もある。各種目優勝者によるトーナメント戦の勝者が「グランドチャンピオン」で、五月も将史も世界選手権で2度ずつ輝いた。この異種試合はスポチャンの特徴であり、魅力でもある。
 一方、男女を問わず技の美しさと正確さを競うのが「基本動作」。空手なら「形」にあたる。号令と共に「面」「小手」「胴」「足」「突き」の五つの動作を順番に繰り出し、剣を打ち込む姿勢や剣先の停止位置などが審査される。五月の戦歴がすごい。
 中学1年で出場した2005年の世界選手権で個人戦初戴冠。以来、個人戦は8度、国別団体戦は昨年まで13年連続世界一だ。
 「予選から決勝まで5回以上演武しますが、毎回、守りに入らずに力強く剣を振るように心掛けています」。凜(りん)とした五月の演武に将史も「基本動作は自分との戦い。突き詰めると、しんどくなるし、プレッシャーもかかる」と、タフな精神力に舌を巻く。
 母親の英才教育を受けた五月は、小学3年で全国大会で優勝した。一方、将史が競技を始めたのは中学3年の時。テニス部を引退し、体験会に参加したのがきっかけだ。始めて間もなくの大会で好成績を収め、「テニスはぱっとしなかったが、スポチャンは自分に向いていると思った」。
 高校時代は都内の道場に通い競技に打ち込んだ。そして高校3年で出場した07年の世界選手権で、打突部門で世界一に輝く。種目は両手に長剣と小太刀を持った「二刀」。180センチ超の長身と長い腕を生かした戦法で勝ち進むと、決勝で前年世界王者のフランス選手を撃破。勢いに乗ってグランドチャンピオン戦も制した。この大会では、中学3年の五月も基本動作で2度目の優勝を遂げている。
 2人は10年の世界選手権でもそろって世界一に。その後、男女のトップ選手は一年間の交際を経て18年に結婚。今年は家族が増えた。

9月に生まれた将太朗ちゃんを抱っこする五月と将史

 来年の世界選手権の女子打突で連覇がかかる五月の夢は「主人とともに世界一になる」ことだ。得意の基本動作も2大会ぶりに王者に返り咲き、2冠を狙う。将史も「息子に世界一のパパとママを見せたい」と10年間遠ざかる世界一奪還へ気合が入る。
 愛くるしいわが子の笑顔を力に変え、夫婦で剣を振り続ける。
 (敬称略)
<スポーツチャンバラ> 1971年に現国際スポーツチャンバラ協会会長の田邊哲人氏によって始められた。73年に前身の全日本護身道連盟が発足し、各地で大会や講習会を開催。打たれても痛くないエアーソフト剣を使うことで、老若男女が楽しめるスポーツとして全国に普及した。
 使用する剣は、短刀、小太刀、長剣、杖、槍、棒などがあり、剣の種類や楯との組み合わせで13種目ある。ルールは1試合3分間、3本勝負。自分の得物が相手の体に当たったら勝ち、当てられたら負けと分かりやすい。欧米やアジアなど世界38カ国に普及。国内の競技人口は30万人を超え、世界で40万人という。
<ながい・さつき&まさし> 五月の世界選手権の成績は、基本動作の個人戦で05〜18年にかけて8度頂点に輝き、国別団体戦は13連覇中。女子打突も2度(13、19年)制した。高知市出身。早大進学を機に上京した。段位は5段。日本スポーツチャンバラ協会の指導部に在籍し、小学生への普及活動に力を入れている。
 将史は打突の個人戦で2度(07、10年)世界一。国別団体戦も2度(08、11年)優勝。3段。東京都港区出身。千葉県内のホテルに勤務する。
  文と写真・牧田幸夫

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