<介護で辞めない>(下)言えない空気 支援制度 広がらぬ利用

2020年12月9日 07時13分

JFEライフの「仕事と介護の両立セミナー」=2019年12月、東京都内で(同社提供)

 「うちでは介護で辞める人はいない」。仕事と介護の両立支援に詳しいSOMPOリスクマネジメント(東京)の上席コンサルタント泉泰子さん(58)は、企業の人事担当者からこんな言葉を聞くたびに思う。「会社側が気付いていないだけでは」
 年休などを使って介護してきたが、相談できずに行き詰まり、疲れ切って退職する人は少なくない。退職願の理由に「一身上の都合」とだけ書く介護離職者も多い。「親の介護や認知症はプライベートなことで、会社に相談するという意識が従業員にない」と泉さん。リクルートワークス研究所の二〇一七年の調査では、介護をしている雇用者のほぼ三人に一人が、会社に介護を伝えていない「隠れ介護者」だった。
 仕事と介護の両立を支援する国の制度の一つ「介護休業」。中小企業の経営者の中には「中核となる従業員が休むとまずい」と、介護休業の周知を経営リスクと考える人もいる。総務省の一七年調査では、介護をしている雇用者のうち介護休業を取得した人の割合はわずか1・2%。「職場に迷惑を掛けたくない」意識や、評価や昇進への影響に対する不安も壁になっているようだ。上司から「家庭を仕事に持ち込むな」などと言われ、取得を断念した事例もかなりあるという。
 「介護休業や介護保険制度があまりに知られていない」と、一般社団法人「介護離職防止対策促進機構」代表理事の和気美枝さん(49)は嘆く。「どんな状況で休みを取ったらいいか、介護サービスの申請の仕方も分からない人が多い」
 一方で、離職防止に力を入れる企業が増えてきた。さいたま市の情報サービス業「AGS」は一五年、独自の休暇制度などを盛り込んだ支援ガイドラインを策定。人事部長の高井秀夫さん(54)は「働きながら介護をすることを想定して作った」と話す。
 社員は期限なしで有給休暇を百日まで積み立て、いつでも病気療養や介護、子育て、留学、ボランティア活動などに使える。フレックスタイムや在宅勤務制度もあり、親の通院の付き添いなどで活用する社員も。「多様な働き方ができることが離職防止になる」と、高井さんは強調する。
 グループ会社約三百社、社員約六万八千人の福利厚生を担当するJFEライフ(東京)は一八年、社内に「介護支援センター」を開設。グループ会社の一六年の調査で、社員の13%が「親の介護で離職する可能性がある」と答えたことに危機感を持ったからだ。専門職員が介護保険の解説や、遠距離介護の実例紹介などのセミナーを開き、個別相談にも対応。担当役員の広英二さん(62)は「中高年の離職が目立たなくなった」と語る。
 「介護休業、介護休暇や年休などをうまく組み合わせ、保険サービスも駆使して仕事と介護の両立体制を整えることが重要」と泉さん。介護のことを話しやすい職場の雰囲気づくりも大切だ。和気さんは「会社のトップが『介護離職をさせない』というメッセージを出してほしい」と期待する。 (五十住和樹)
<介護休業と介護休暇> 改正育児・介護休業法が2017年に施行され、まとまって休める介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割して取得できるようになった。事前に勤務先に書面やメールで取得を申し出る。休業中は雇用保険から介護休業給付金(賃金の67%)が支給される。介護休暇は1年に5日まで、半日単位でも取得できる。来年1月からは1時間単位でも取れるようになる。

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