ネット配信時代のテレビ 「エムキャス」で先行、MX社長に聞く

2019年8月17日 02時00分

エムキャスの画面

 改正放送法の成立により、NHKが24時間、テレビ番組を放送と同時にインターネットに流す「常時同時配信」が可能になった。NHKは本年度中にも始める意向で、来年の東京五輪・パラリンピックも追い風となり、放送と通信の融合が加速しそうだ。一方、常時ではないが、NHKに先駆けて番組のネット同時配信を4年前から始めていたのが東京MXテレビ(TOKYO MX)だ。昨年6月に就任した伊達寛社長=写真(下)=に同社のネット配信サービス「エムキャス」の展望を聞いた。 (原田晋也)
 「テレビの放送収入が今後伸びていくことは考えにくい。次のモデルをつくっていかなくてはならない」。ネット時代のテレビ局のあり方について、伊達社長は危機感をにじませた。
 NHKの常時同時配信の背景には、若年層のテレビ離れが進み、ネット利用時間が増えていることへの危機感がある。民放キー局も危機感は共有しているが、同時配信への動きは慎重だ。キー局制作の番組を流している系列の地方局が全国にあるため、ネットを通じて全国にキー局と同じ番組を届けられるようになれば、地方局の経営が揺らぐ可能性が高いからだ。
 一方、ネットワークを持たない独立局のMXは「しがらみがなく、やりやすかった」。エムキャスは、東京都内と関東圏の一部にしか流せなかった番組を全国に届けられるようになるという大きな飛躍だった。
 一方で大きな課題にもぶつかった。MXは午後10時台からアニメを多く放送するなど、アニメが充実しているのが特色の一つ。エムキャスのサービス開始前には、地方在住のアニメファンの期待が高まった。
 しかし、ネット配信の権利を収入源にしているアニメの製作委員会が難色を示した。エムキャスで流すには別途、巨額の権利料が必要になり、現在エムキャスで配信できているのは60あるアニメ番組のうち8番組にとどまっている。
 NHKの常時同時配信について、伊達社長は「時代の流れとして当然。権利問題など、いろいろな壁をなくす引き金になってくれればうれしい」と期待する。
 発展途上ながら、伊達社長はエムキャスを「MXにとって一番大事な、新しいモデルをつくる中核」と位置付ける。昨年には商品を紹介する番組を生配信し、そのままアプリで商品を購入できる“テレビ通販番組のネット版”の実験も行った。スマホの位置情報を利用したサービスなど、エムキャスを切り口にしたさまざまな新規事業も考えているという。
     ◇
 2017年1月、情報バラエティー番組「ニュース女子」で沖縄の米軍基地問題を扱った。米軍ヘリパッド建設に反対する参加者が日当を得ているなどと伝え「事実と違う」と批判が集まった。放送倫理・番組向上機構(BPO)からは「重大な放送倫理違反があった」と指摘され、番組の放送を終了した。伊達社長は「テレビ局の一番の存在意義は信頼感。事業の根っこに信頼感がないと意味がない。あの問題は足元を見直し、反省する機会だった」と強調。「本業をしっかりやりながら新事業をどんどんやっていく」と述べた。
<エムキャス> 地上波では東京都内と関東圏の一部で視聴可能なMXの番組を、ネットを通じて全国どこでも視聴できるサービス。現在同時配信している番組は約3割だが、徐々に増やしている。4月からは人気情報番組「5時に夢中!」も配信番組に加わった。パソコンのほか、スマートフォンにアプリを無料でダウンロードして使う。2015年7月のスタート以来、総ダウンロード数は約243万件。

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