米政権移行期131年ぶりの死刑強行 米国で広がる波紋、トランプ氏「4年後」視野?

2020年12月9日 23時01分
 米大統領選で敗北したトランプ大統領が死刑の執行を強行している。先月には「選挙後の政権移行期は執行しない」という長年の慣例を破って実施。死刑廃止にかじを切るバイデン次期大統領の就任直前にも相次いで執行を予定しており、異例の姿勢が波紋を広げている。(ニューヨーク・杉藤貴浩)

◆「突然決まったことに当惑している」

 「彼は自分の罪を受け入れている。だが、執行が突然決まったことに当惑しているようだ」。1992年、南部バージニア州で麻薬取引に関連して共謀者とともに7人を殺害したコリー・ジョンソン死刑囚(52)。弁護人のロナルド・タバック氏は本紙の取材にこう語った。
 同死刑囚には知的障害があったとして、弁護団は死刑の停止を訴えてきた。ところが先月下旬、司法省はインディアナ州の刑務所で1人を死刑に処したのに続き、同死刑囚ら3人の執行予定も発表。来年1月までに計5人が執行されることになった。タバック氏は「この時期に執行するのが適切だとは誰も考えないはずだが…」と驚きを隠さない。

◆「歴史が積み上げた価値観からそれる」

 民間団体「死刑情報センター」によると、大統領選が終わってから勝者が就任するまでの政権移行期に連邦レベルで死刑が行われたのは131年ぶり。次期大統領への円滑な引き継ぎを求められる「レームダック(死に体)」政権は、積極的な権力行使を控える伝統があっただけに、トランプ政権の異色さは際立つ。
 同センターのロバート・ダナム事務局長は「米国の歴史が積み上げてきた価値観から大きくそれた」と指摘。「新型コロナウイルスが拡大する中、執行チームや弁護士、宗教者ら多くの関係者が刑務所で一堂に会すというリスクも無視している」と問題視する。
 今後、発表通りジョンソン死刑囚らに死刑が行われれば、トランプ政権での執行は13件。近年では4選したフランクリン・ルーズベルト元大統領に次ぎ、第2次大戦後は最多となる。

◆肯定派多い保守層にアピール狙う?

 なぜトランプ氏は最後まで死刑執行に固執するのか。かつてテロ事件の容疑者について、裁判の判決前に「死刑にすべきだ」などと述べ、今年7月には連邦レベルの死刑執行を17年ぶりに再開するなど、同氏は元から積極的な死刑肯定論者だ。死刑情報センターのダナム氏は、今回の一連の執行についても「最後までやりたいことをやるのだろう」と受け止める。

政権移行期でも死刑執行を強行するトランプ米大統領=5日、米南部ジョージア州で(ロイター・共同)

 ただ、「連邦で死刑を廃止する法律を可決し、州が従うよう促す」と掲げるバイデン氏の就任前に執行を強行するのは、4年後の大統領選再出馬も視野に、死刑肯定派が多いとされる保守層にアピールする狙いだとの見方もある。
 死刑問題に詳しいスタンフォード大のジョン・ドノヒュー教授は「積極的に死刑を支持する姿勢は政治的に特定の層をひきつける力を持っており、一部の政治家は支持拡大に利用してきた。トランプ氏はその最たる例だ」と指摘している。

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