医療費負担引き上げ 個人の負担額、具体的な試算なしで決定

2020年12月11日 06時00分
 75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる制度変更は、線引きとなる所得基準を単身世帯の年金収入で年間200万円以上とする方向で政府・与党が決着した。だが、政府は、対象者1人当たりの負担額が実際にいくら上がるのか具体的な試算をしていない。当事者が最も関心のある数値を示さないまま、国民に負担増への理解を求めるのは容易ではない。(新開浩)

◆説明データが不十分

 「いろいろ議論すれば課題があるが、それは今後、次の状況に向けて引き続き検討していきたい」
 公明党の山口那津男代表は10日の党会合であいさつし、前夜の菅義偉首相との会談で大筋合意した所得基準を巡り、残された課題があることを認めた。
 課題の1つは、国民に負担増への理解を求めるための説明データが不十分であることだ。
 厚生労働省は現在の医療費負担が1割の後期高齢者のうち、住民税が非課税の低所得層を除いた約900万人の負担を2割に引き上げた場合、年間の1人当たりの自己負担額は、8万1000円から3万4000円増え、11万5000円になると試算している。ただ、年収別の増額幅は試算しておらず、今回の線引きとなった年収200万円以上の約370万人の増額幅の見通しは、正確には分からない。

◆年収別の試算せず「必要なデータない」

 厚労省の担当者は、年収200万円以上の人の増額幅について、3万4000円増という試算額と「大きくは変わらないだろう」と説明。年収別の試算を行わない理由について「必要なデータがない。どの所得層の人が、どんな病気にかかり医療費をいくら支払っているのか。これは最も慎重に扱うべき個人情報だ」と、個人情報が入手できないことを理由に挙げた。
 このほか、線引きとなった所得基準は、単身世帯の年金収入をモデルとしており、同居家族がいる世帯や年金以外の収入がある後期高齢者には、単純に当てはまらない場合もある。
 高齢者は若い世代に比べ、平均的に診療を受ける回数が多く、年収が減る中で1人当たりの窓口負担が増える傾向がある。厚労省幹部も「若者より負担割合が低いから、というだけの理由で引き上げるのは酷だ」と認めており、政府には丁寧な説明と、受診手控えによる健康悪化を防ぐ対策が求められる。

現役世代の負担は?

 後期高齢者の出費が増えるのに対し、現役世代の負担はどれほど減るのか。厚労省の試算では、年収200万円以上の医療費負担を2022年度当初から2割に引き上げた場合、現役世代の年間の保険料負担は22年度に1人当たり平均で800円、25年度には1100円減ると見込んでいる。25年度には人口の多い団塊の世代が全員、75歳以上になり、医療費の伸びが見込まれる分、抑制効果も高まる見通しだ。

 ただし、1人当たりの見通しで比べた場合、後期高齢者の増額幅に比べると、現役世代の減額幅は金額の桁が小さい。
 首相は現役世代の負担軽減にこだわったが、自民党幹部の1人は「これでは若者に伝わらない。理解してもらえればいいが、実際はそうではないだろう」と語り、来年の東京都議選や衆院選、22年参院選への影響を懸念した。

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