<中村雅之 和菓子の芸心>「でっち羊羹」(滋賀県近江八幡市・和た与) 小遣いで買えた土産

2020年12月11日 07時19分

イラスト・中村鎭

 「寝床」「四段目(よだんめ)」「茶の湯」−。落語には、「丁稚(でっち)」がよく登場する。名前は、なぜか大抵「定吉(さだきち)」だ。丁稚は、商家の奉公人の中の一番下っ端で、10歳くらい。昔は、こんな子どもでも奉公に出た。細々とした雑用をこなしながら、年齢を重ねると手代、番頭へと出世してゆく。関東では「丁稚」ではなく「小僧」と言った。
 近畿・中部地方一円に古くからあるのが「丁稚羊羹(ようかん)」。地方によって水羊羹や蒸し羊羹の違いはあるが、いずれにしても手頃な値段だ。
 「近江商人」で知られる近江八幡にある江戸時代からの老舗「和(わ)た与(よ)」の「でっち羊羹」は、小麦粉を混ぜて作る蒸し羊羹。竹皮に包まれ、開けるとほんのり良い香りがする。
 「丁稚羊羹」の名前の由来はさまざまだが、「和た与」では、丁稚が買って行ったことからだとしている。たまに僅(わず)かな小遣いを貰(もら)えるだけだった丁稚でも買うことができた。
 今では考えられないことだが、丁稚の休みは、正月過ぎの1月中旬とお盆の2回だけで、「藪入(やぶい)り」と呼ばれた。この時の手土産にしたのだ。
 落語にも「藪入り」という人情噺(ばなし)がある。藪入りで戻った息子を不憫(ふびん)に思った母親が、小遣いを入れてやろうと財布を開けると、大金が入っていた。悪事を働いたのではないかと心配する両親。実は、ネズミを捕まえて当たった懸賞金だった。
 なぜネズミで懸賞金か? この落語が作られたのは明治時代後期。この頃、日本ではペストが大流行していた。捕まえて交番に持って行くと抽選券を貰えたのだ。新型コロナウイルスの今、身につまされずにはいられない。(横浜能楽堂芸術監督)
 <和た与> 滋賀県近江八幡市玉木町2の3。(電)0748・32・2610。3本包み972円。 

明治40年代の丁稚(現在の岐阜県山県市で)


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