コロナ禍 この1年

2020年12月11日 07時28分
 新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた二〇二〇年。伝統芸能の各分野でも影響は今も続いている。「歌舞伎」「日本舞踊」「能楽」それぞれの現場を見てきた専門家や記者が、(1)どんな一年だったか(2)その中で印象に残ったこと(3)来年の展望−を記します。

◆歌舞伎 公演再開も「コロナシフト」

コロナ禍で舞台が休演。人通りがなく、ひっそりとした歌舞伎座=4月10日、東京・銀座で

 (1)東京・歌舞伎座は三〜七月まで公演がなく、一大イベントだった「十三代目市川團十郎白猿襲名披露」(五〜七月)も無期延期。八月に再開したが、一部一演目の四部制での“コロナシフト”が続く。東京・国立劇場も「三月歌舞伎公演」が中止、「十月歌舞伎公演」が再開された。
 異常事態に坂東玉三郎は「舞台に立てないことでバタバタしない」と達観、自宅で稽古を積んだ。中村吉右衛門は五カ月ぶりの舞台に「お客さまの拍手に『役者になってよかった』」。舞台に立ってこそという思いを吐露した。
 十一月には人間国宝で文化勲章受章者の坂田藤十郎さん(88)が亡くなった。
 (2)ほかの分野同様、オンライン配信が目立った。なかでも、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を活用した、松本幸四郎の構成・演出・出演による「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」(六、七月)が斬新。映像を重ね合わせた手法は、新たな可能性を秘める。幸四郎も「新たな歌舞伎の選択肢の一つになれば」と語る。
 (3)十一月に歌舞伎俳優にコロナ感染者が出て、十二月の公演に影響が出た。各劇場は感染防止対策を徹底しての興行が続く。歌舞伎座は新年から三部制に移行予定で、少しずつ平常化をめざすが、「團十郎襲名披露」も見通しは立っていない。
(山岸利行)

◆日本舞踊 リモートや距離保って稽古

オンラインでカナダの生徒に教える花ノ本寿=8月、東京都練馬区で

 (1)家元の襲名や記念の公演、日本舞踊協会主催などの大規模公演から個人のリサイタル、お温習(さら)い会などが軒並み延期、中止となり、プロの舞踊家も一般の門弟も研さんの成果を発表する機会を失った。また、文化庁芸術祭参加公演も、特に舞踊部門(ダンスなども含む)で減少、関東では昨年の三十公演から今年は十公演に激減した。
 (2)約五十人の日本舞踊家を一人ずつ撮った映像を加工して一つの作品に仕上げた「夢追う子」がNHKで七月に放送され、話題になった。秋口から少しずつ公演も再開されたが、舞踊家は個人経営が多く、感染対策を徹底しての公演開催は相当な困難を伴う。ある舞踊家は「お温習い会は感染が不安、延期すれば高齢者が次回出演できるかが案じられる。やるのもやらないのも苦渋の決断」という。
 一方、リモートでの稽古も始まったが、日本舞踊は主にマンツーマンの個人稽古。一人で演じる演目が多いため、対面稽古であっても距離を保つことが容易な面もある。
 (3)日舞でも無観客公演をオンライン配信する例も出てきた。古典の舞台も大切にしながら映像をうまく生かし、舞台とはまた違った日舞の魅力を引き出す取り組みに期待したい。
(阿部さとみ=舞踊評論家)

◆能楽 オンライン活用新たな道

無観客で上演され、ネット配信された能「船弁慶」=4月5日、金沢市の石川県立能楽堂で

 (1)四〜六月ころにかけ、生の舞台公演がほとんどなくなった。能楽師だけでなく、能装束や扇など道具を作る人たち、能の謡本(うたいぼん)の出版社など、すべての人が大きな経済的打撃を受けた。「こんなに長く休んだことはない」「舞台がないので、散歩して河川敷で謡の稽古をしています」といった能楽師の声を聞いた。公演再開後も「応援したいが、感染リスクが怖い」というファンも多かった。
 四月には、大蔵流狂言方の善竹富太郎さん(40)がコロナ感染で逝去。
 (2)オンラインを活用し、東京と京都を結んだ能楽師の対談イベントは人気を集めた。人気漫画と能が融合したVR(仮想現実)能「攻殻機動隊」の公演(八月、東京・世田谷パブリックシアター)は若者で熱気に包まれた。再演も重ねられ、能楽の新しい可能性を感じた。「能楽公演2020 新型コロナウイルス終息祈願」(七、八月、国立能楽堂)は能楽界のオールスターが出演、観世銕之丞(能楽協会理事長)は「久しぶりの舞台で足が震えた」と語るなど、演者側にも緊張感あふれる再開の舞台となった。
 (3)オンライン公演や講座などは今後も続くのではないか。コロナ禍が長引くと、能楽を支えるものづくりの現場の存続に影響が出かねない。
(田村民子=伝統芸能の道具ラボ主宰、ライター)

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