<お道具箱 万華鏡>歌舞伎のかつら 人毛 実は貴重品

2020年5月22日 02時00分

「勧進帳」弁慶のかつら。赤い糸は兜布という小さな帽子をつける位置の目印

 歌舞伎役者は、お坊さんやお姫様、獅子など、さまざまな役を演じる。その変身に欠かせないのが「かつら」だ。
 歌舞伎の世界では、かつらはかつら師と床山が分業で作る。土台の形を作り、毛を付けるまでが、かつら師。そのざんばら髪を、櫛(くし)で結い上げるのが床山だ。
 だが、かつら師の手だけで、完成するものもある。「勧進帳」の主人公、弁慶のかつらもそのひとつ。どんな材料で、どう作るのか。多くのスター俳優を担当する東京演劇かつら社長の川口清次さんに話を聞いた。
 弁慶の髪形は、髷(まげ)のないロングヘア。触ってみると、毛はバリバリして、硬い。「このかつらは『撫(な)で付け』という名前です。ヤクの毛なんですよ。私たちはカラと呼んでいます」
 かつらの材料は、人毛が主体だが、強い性格の役ではカラを用いることがある。ヤクは、ウシ科の動物で、チベットなどの標高の高い場所にしか生息しない。どういう経緯で、遠い異国からの毛を使うようになったのか、とても興味深い。
 人毛も実は貴重品。染色やパーマをしていない長い黒髪が必要なのだが、入手するのは非常に困難だという。こうした苦労の上に舞台は成り立っている。
 次に土台の素材だが、特別注文で堅さを調整した銅板を用いる。厚さは0・3ミリ。これを立体に仕上げていくが、この作業になくてはならないのが「打ち台」という道具。かつらは役者の頭にぴったりフィットしていないと大きな苦痛を与える。打ち台のへこみなどに平らな銅板をあて、木づちや金づちで叩きながら、微妙な加工を施していく。ここが腕の見せどころである。
 「一番大切な道具は、この打ち台です。先代から譲ってもらったものなんですよ」と川口さん。道具を介して技が伝承されていく。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

かつら製作の材料となる銅版(左)と、立体にするための道具「打ち台」

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