いまは亡き名優の名演 六代目歌右衛門「伽羅先代萩」

2020年5月1日 02時00分
 DVD「歌舞伎名作撰(せん)」(発行・発売元 NHKエンタープライズ、松竹との共同企画)シリーズは、今は亡き名優の舞台が多く含まれている。戦後の歌舞伎界を代表した女形、六代目中村歌右衛門(1917~2001年)らによる「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」もその一つだ。
 江戸時代の仙台藩のお家騒動を題材に作られた物語で、1983(昭和58)年5月の東京・歌舞伎座の舞台の映像。歌右衛門が演じる乳母の政岡は、自分の子を犠牲にして、お家乗っ取りを企てる仁木弾正、妹八汐(やしお)らから幼い若君を必死で守る。毒を入れられた食べ物を食べないように用心して暮らし、若君らに空腹であっても武士として動じないでいるようにと教える。
 せりふ、動きが極めて丁寧、明確で、若君を守り抜くという政岡の心がひしひしと伝わる。茶道具でご飯を炊く場面は有名で、名人の動作の一つ一つにくぎ付けとなる。
 毒入りの菓子を、若君より先に政岡の子が食べ菓子箱を蹴飛ばし、八汐に殺される。若君は守られたが、子を失った政岡の姿は哀切極まりない。
 この八汐は実に憎々しく、演じているのは十七代目中村勘三郎(1909~88年)。2012年に亡くなった十八代目の父で、今の勘九郎、七之助の祖父だ。その後登場する悪党の仁木弾正を太い線で演じているのは二代目尾上松緑(13~89年)で、今の松緑の祖父。
 歌右衛門らは戦中、戦後の苦難を乗り越えて歌舞伎を上演し続けた。不屈の魂の力強さが伝わってくる。

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