<中村雅之 和菓子の芸心>「三升もなか」(兵庫県西宮市・成田家) 甘党「九代目」惚れ込む

2020年5月8日 02時00分

イラスト・中村鎭

 歌舞伎の世界で「九代目」と言えば、明治時代を代表する名優・九代目市川團十郎。九代目は甘党で、よほど好きだったのか、何かと最中(もなか)にまつわる「伝説」が多い。
 饅頭(まんじゅう)の元祖として知られる塩瀬総本家には、九代目が考案し、命名もしたとされる「袖ケ浦最中」が残る。
 銀座の老舗・空也の「空也最中」は、皮の香ばしさがウリ。これは、この店の初代が九代目と親しく、楽屋を訪ねた時に、最中を焙(あぶ)って出してもらったことがヒントになったと伝えられる。
 東京だけでなく、関西にも九代目と最中にまつわる話が残っている。西宮の「三升(みます)もなか」だ。
 九代目は、明治31(1898)年、梅田にできた大阪歌舞伎座のこけら落とし興行に出演するため、初めて大阪へ行く。興行は大当たりで、見物客が舞台まではみ出すほどだった。
 店に伝わる話では、その時に九代目が好んだのが、この店の最中。それを記念して團十郎家の定紋・三升の形にして「團十郎もなか」として売り出した。
 戦後、九代目の婿養子である五代目市川三升(さんしょう)が、大阪歌舞伎座に出演したのをきっかけに、名前を「三升もなか」と改めた。
 3種類あり、皮の色で中身が分かる。茶色は漉(こ)し餡(あん)に小豆の粒を交ぜた小倉餡、青は香りが良い柚子(ゆず)餡、白は栗餡だ。餡には寒天が練り込まれていて、独特の食感が楽しめる。店の入り口の上には、三升が揮毫(きごう)した「成田屋」の看板。大店(おおだな)に生まれ、才人と言われた三升らしい洒脱(しゃだつ)な筆さばきだ。 (横浜能楽堂芸術監督)
<成田家> 兵庫県西宮市羽衣町8の8。(電)0798・22・3189。10個入り2250円(箱代込み)。

豊原国周「役者錦絵帖」から九代目市川團十郎の「弁慶」(左)と「五郎時宗」=国立国会図書館ウェブサイトから

関連キーワード

PR情報