<新かぶき彩時記>大津絵と「藤娘」 観光名所も織り込まれ

2020年5月1日 02時00分
 大津絵は近江・大津宿(滋賀県)の名物で、江戸期から受け継がれる民俗絵画。東海道を行き交う旅人の土産物や、お守りとしても人気でした。素朴でユーモラスなタッチは今見ても魅力的です。大津絵に描かれるいろいろなモチーフは、昔から芸能にも取り入れられてきました。
 その代表例が舞踊「藤娘」。塗り笠(かさ)をかぶって大きな藤の枝をかついだ姿は、大津絵の画題のひとつで、日本人形でもおなじみです。原曲となったのは、貧しい絵師・浮世又平が活躍する「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」の大喜利で演じられた五変化(へんげ)舞踊。大津絵の製作で糊口(ここう)をしのぐ又平が描いた人物たちが、絵から抜け出して踊り出すという趣向がルーツです。
 現在では六代目尾上菊五郎がアレンジした演出が定着。大きな藤の花を背景に、娘姿の藤の精が、衣装を何度か変えながら、恋心を可憐(かれん)に表現します。お酒を呑(の)んだ娘の酔態を見せる「藤音頭」の部分が特に有名で、三味線の他に鉦(かね)という金属製の打楽器も使われ、そのリズミカルな調子を耳にしたことのある人は多いでしょう。
 観光を連想させるのも大津絵の特徴。娘が恋心を訴えるクドキの部分では「堅い誓いの石山に~」という詞章にあるように、堅田や石山寺など、近江の観光名所を紹介する「近江八景」が織り込まれています。 
 (イラストレーター・辻和子)

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