後進のため経験つづる 『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』 出版翻訳家・宮崎伸治さん(57)

2020年12月13日 07時00分

八木洋子撮影

 一般の人から見れば、出版翻訳の世界は謎に満ちていることだろう。だからからか私は知人友人からさまざまな質問を受ける。一冊訳すといくら稼げるのか、何年勉強すれば翻訳家になれるのか、ベストセラーになる原書はどうやったら見つかるのか、出版社にはどうアプローチすればいいのか…。質問を受けるたび私は自らの体験をもとに答えている。
 では、かくいう私はデビュー時にどれほどのことを知っていたのか。実はほとんど何も知らなかったのである。当時は入手できる情報も限られていたこともあり、知っていたのは印税や発行部数がどの程度かくらいで、出版翻訳家にはどんな喜怒哀楽があるのかとか、出版業界にはどんなトラブルの種が潜んでいるかなど想像すらできなかった。
 そんな私がひょんなきっかけで出版翻訳の世界に飛び込んだわけだが、今にして思えば、それは何も持たずにジャングルに飛び込むようなものだった。美しい景色が見られたりスリリングな体験ができたりする反面、猛獣に襲われたり毒キノコを食べてしまったりというリスクもあるのがジャングルだが、能天気な私は出版翻訳という名の「ジャングル」に無防備なまま飛び込んでしまった。その結果、「天国」も味わうこともあったが、何度となく「地獄」に突き落とされ、最終的には「職業的な死」を迎えることとなった。
 そのとき私は痛感したのだ。出版翻訳の世界は魅力的な側面もあるが、まだまだ改善が必要な世界であり、予備知識のないまま飛び込むにはリスクが大きすぎると…。そこで私は出版翻訳家(及びその志望者)により賢明な道を歩んでもらおうと、私の経験した「天国」と「地獄」を語ろうと決意し、本書の執筆に取りかかったのである。
 私が経験した「天国」を読んで、いま一歩踏み出せなかった出版翻訳という名の「ジャングル」に飛び込んでみるのもいいし、「地獄」を読んで転ばぬ先の杖(つえ)にしてもらうのもいい。また本書には裁判沙汰になってから手のひら返しをした出版社との激しい攻防劇もリアルに再現してあるので、出版翻訳の世界には興味がないが裁判(あるいは裁判が始まった後に豹変(ひょうへん)する人間模様)には興味があるという方にも楽しんでいただけると自負している。本書を「出版翻訳家の生態白書」としてどうぞご堪能あれ! =寄稿
 三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売・一五四〇円。

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