信念は社会を変えた! ルース・ベイダー・ギンズバーグ ジェフ・ブラックウェル&ルース・ホブデイ編

2020年12月13日 07時00分

◆リベラル判事の理性と情熱
[評]中沢けい(作家)

 フェミニズムは新自由主義のしもべになってしまったという嘆きを昨今、耳にすることがある。個人の経済的成功と立身出世を追求する女性たちが登場したのである。
 マッカーシズムが吹き荒れる一九五〇年代の米国でルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)が法律家を志した頃には想像もできなかった事態であろう。当時の米国では女性は妻と母の役割を求められるばかりで法律家になることも政治家になることもできなかった。
 六〇年代、ユダヤ教徒で女性、しかもすでに母親になっていたRBGは法曹界で就職の道を閉ざされ学術研究の道を選ぶ。七〇年に雑誌「女性の権利法レポーター」を共同で創刊、法律家として性差別をめぐる訴訟を最高裁で六件争い、五件に勝訴する。
 八〇年、カーター大統領からコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判事に指名される。九三年、クリントン大統領から米国最高裁判事に指名され、史上二番目の女性判事となる。二〇二〇年九月に死去するまでリベラル派判事として米国に大きな影響を与えた。大衆的人気を持っていたRBGの死去の報は米国の多くの人々の嘆きとなった。
 トランプ大統領が後任判事に保守派の女性エイミー・コニー・バレットを指名した。これで米国の最高裁は保守派六名、リベラル三名の構成になったことは記憶に新しい。
 表情豊かな肖像写真と略歴、印象的な発言を集めたのが本書である。言葉に添えられた肖像写真は「ノーと言われても諦めないこと。ですが、怒りに任せて反応してもいけません」と語る内面の起伏をよく伝える。写真のRBGはじっとこちらを見つめている。「大切なことのために闘いなさい。ただし、周囲の人が協力してくれるような方法でおやりなさい」と勧めるその顔は理性と情熱が同居しうることを物語っている。
 RBGが去った米国に、初めてのアジア系黒人女性副大統領となるカマラ・ハリスが登場した。フェミニズムの変容の嘆きを払拭(ふっしょく)できる存在になるだろうか。
(橋本恵訳、あすなろ書房・1100円)
ブラックウェルはニュージーランドを拠点に出版など企画。編集長のホブデイと各国で出版している。

◆もう1冊

藤本一美・濱賀祐子編著『現代アメリカの「女性政治家」』(学文社)

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