<新かぶき彩時記>「与話情浮名横櫛」の一目惚れ 春の気分とマッチ

2020年4月17日 02時00分
 春は恋の気分-。ふんわりした気候に誘われたような「一目惚(ぼ)れ」の瞬間を描いたのが「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」の見染(そ)めの場面です。
 舞台は木更津(千葉県)の海岸。江戸の商家の若旦那・与三郎は、腹違いの弟に家督を譲ろうと考え、わざと放蕩(ほうとう)をした結果、現地の縁者に預けられています。鳶頭(とびがしら)と浜遊びに出かけた時に出会ったのが、土地の親分の妾(めかけ)・お富。彼女は元江戸の芸者で、美男美女の二人は一目で恋に落ちます。地方で出会った都会の男女という構図が印象的です。
 海岸の風景にも注目。大人たちが貝を探しています。房総ではちょうど潮干狩りのシーズン。背景に描かれた波も、のどかな春の気分を表すように、おだやかなのが特徴だそう。大道具にも芝居心が必要なのです。
 与三郎と鳶頭が話しながら客席の間を通って舞台に戻る演出も面白い。客席も浜辺の一部に見立てているのです。与三郎とすれちがったお富が、振り返って「いい景色だねえ」とつぶやくのは、与三郎の男ぶりをほめる台詞(せりふ)。与三郎もお富に見惚れ、心ここにあらずで着ている羽織を落とし、鳶頭に注意されて「知ってるよう!」と返す台詞には、お坊ちゃまらしさがにじみ出ます。この羽織の裏地は与三郎役者の文様入りです。 (イラストレーター・辻和子)

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