<新・笑門来福 桂雀々>人がいてこそ… 桜も落語も同じです

2020年4月10日 02時00分

今年は寂しい桜でしたなあ。来年は楽しくお花見したいものです

 中国の街で新型コロナウイルスが発生したと聞いた時に、僕はまだ呑気(のんき)に尻でも掻(か)きながら、スナック菓子を食べていた。それがまさか世界的大危機を招く事態になろうとは誰が想像したやろう。
 当然、落語界も大打撃です。ここ数カ月の落語会は軒並み中止になり、売れっ子の噺家(はなしか)でさえ髭(ひげ)が伸び放題というありさま。落語家を目指す人間は、落語が好きで好きで三度の飯より落語が好きで、そんな落語バカがプロを目指します。もちろん僕もその一人。その落語バカから落語を取ったらただのバカや。へんなウイルスなんかで、ただのバカになり下がるのは嫌やなぁ。
 けど、誰より落語バカだったのは僕の師匠、桂枝雀だったと思います。趣味なし、他に興味なし。とにかく寝食忘れて落語に没頭。電車や車乗るにも、歩いてる時にも必ずネタを繰り、ひとりでブツブツ言いながら歩く姿が日常でした。それがおかしな人に見えたんでしょう。ある日、近所の回覧板に不審者のことが書いてあり、それが師匠のことだった時には驚きました。あそこまで落語一筋だった人は後にも先にも見たことがありません。
 ピアノは一日弾かないと腕が落ちるそうですが、落語はしゃべらなければ口の周りに虫が湧くといいます。それはあかんと、この時期は稽古の日々。それでも気分転換にと桜がまだ三分咲きの頃、近所で有名な桜の名所を散歩しました。もちろん公園内は人もまばら。いつもなら、露天商がひしめき合い、空いてる地面を探すのも苦労するにぎわいの場所も、今年は嘘(うそ)のようにひっそりです。桜の立場になれば、なんや毎年大勢詰めかけて、やかましく、もうたまらんと思っているかもしれません。けど、人がいるからこそ、桜は華やかに奇麗に見える。落語も人がいてくれるからこそ、場が楽しくなる。今年の桜は、何や寂しそうに見えるのは僕だけやろか。
 今は、家にいるのが感染防止対策に役立つそうですが。なんだか寂しい時代になったもんだなぁと思います。師匠が生きてたら何て言うやろ。「つべこべ言わずに稽古しなさい!」やろな、やっぱり。早く平和な世界が戻りますように。

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