<中村雅之 和菓子の芸心>「言問団子」(東京都墨田区・言問団子) 能にも登場する名歌

2020年4月10日 02時00分

イラスト・中村鎭

 能には、平安文学から題材を取った曲が多い。これは、生まれたばかりの能の庇護(ひご)者だった室町時代の公家や上級武士にとって、平安時代は、優雅で華やかな文化が花開いたあこがれの時代であり、文学は必須の教養とされたからだ。中でも、多いのは「源氏物語」「伊勢物語」といったところだ。
 「伊勢物語」の主人公は、ただ「むかし、男ありけり」とあるだけで、具体的な名前は記されていないが、在原業平と思(おぼ)しき人物だ。業平は、天皇の孫という高貴な身分の貴族。平安時代随一の美男子とされ、歌人としても名高い。
 「伊勢物語」では、男の元服から死に至るまでを125もの短い段に分け書き連ねる。「東(あずま)下り」の段で、男は都から遠く東国への旅に出る。
 この旅の途中で詠まれた歌から着想して作られたのが、能「隅田川」だ。男が、長い旅路を経て隅田川の畔(ほとり)に立った時、「都鳥(みやこどり)」という名の鳥を知り、都に残してきた恋人を思い出して、詠んだ歌だ。
 かつて隅田川には、幾つもの渡しがあった。その中の一つ、浅草と向島を結ぶ「竹屋の渡し」の畔で、江戸時代の末、一軒の茶屋が店を開く。
 歌にちなみ、「言問(こととい)団子」と名付けた団子を都鳥の絵柄の皿に載せて出したことが評判を呼び、名物となった。漉(こ)し餡(あん)に包まれた丸い団子。味は、小豆餡、白餡、黄緑に色付けされたみそ餡の3種類だ。
 あまり知られていないが、都鳥の形をしたかわいい最中(もなか)もある。予約制なので要注意だ。 (横浜能楽堂芸術監督)
<言問団子> 東京都墨田区向島5の5の22。(電)03・3622・0081。6個入り1380円。

隅田川に架かる言問橋

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