<はじめての和の道>記者体験ルポ 南京玉すだれ 竹と格闘、奥深い見立て芸

2020年4月3日 02時00分

「日本橋」に見えますか?佃川先生(左)はさすが、お見事。=いずれも東京都江戸川区で

 「ア、さて、ア、さて」の軽妙な口上で始まる「南京玉すだれ」。誰もが耳にしたことがありそうな大道芸だが、実際に玉すだれを手にした人は多くないだろう。3月に放送芸能部に異動してきてこのコーナー“初登板”の記者が、南京玉すだれを発展させた「大江戸玉すだれ」の家元・佃川燕也(つくだがわえんや)さん(67)に弟子入りした。玉すだれの魅力を吸収しようと意気込んだが、不器用な記者には甘い世界ではなかった。 (藤原哲也)
 浴衣に着替え、粋な手ぬぐいをかぶって準備万端。早速玉すだれを持ったが、ずっしりとくる重さにびっくり。重さは約五百グラム。すだれ状に編み込まれた竹は不規則な動きをしそうで、何となく手元がおぼつかない。
 「玉すだれには表と裏がある。まずは正しく持つことが第一」と家元。すだれ状の玉すだれをじっくり見る。竹色が白っぽく、真ん中に印がある方が裏で、自分の側に向ける。反対側を外にかざし、竹を一本一本つなぐ結び目が動かないように両手で上下に突っ張ると、何とか構えにたどり着いた。

しっかり編み込まれているようで、意外と竹が抜けやすい玉すだれ

 佃川さんは玉すだれの技が三つに集約されると説く。「伸ばす」「ひねる」「割る」だ。まずは「伸ばす」。右手を上にして構え、下の左手を離した瞬間だった。「ガシャーン」。右に傾いた玉すだれが床に散らばる見事な失敗。しっかり編み込まれているようで、実際はゆるくて意外と不安定。バランスをうまくとらないとこうなる。ばらばらになった玉すだれを拾いつつ心が折れかかる。
 「そうならないために、構えの時から(右と反対に)少し傾けて」と助言を受けて仕切り直し。左手で上から四分の三ほどのところまで束を作るように持ち、残りを床に落として持ち上げると、「魚釣(うおつ)り竿(ざお)」が出来上がった。形にはなっているが、どこか不格好。佃川さんのように玉すだれがきれいに曲がった感じではなく、見立て芸の難しさが身に染みた。
 続いて「ひねる」。正確には、ひねりながら伸ばす動きだ。左手を上にした構えから、下に構えた右手でひねりを加えながら玉すだれをずらしていく。ぎこちないがアーチ形に玉すだれが広がり、「それが日本橋」と佃川さん。ただ、腕の動きが甘いせいか、やや短い日本橋になってしまった。
 最後の「割る」は難関。裏面の印を頼りに左右の手で半分ずつ持ったら束ごと玉すだれを上下にスライドさせ、片方をぐるりと回転させて両方広げると、なぜか「万国旗」に。それを思い切って斜め上に放り投げると「しだれ柳」ができた。指示通りに手を動かしただけだが、玉すだれの動きをよく理解できずじまい。それでも、ど素人の記者が一日でそれなりの技を体験できるのは、この芸の魅力と言っていいだろう。
 そのため佃川さんは、玉すだれを「日本一敷居の低い伝統芸能」と言い切る。ただし、この日は体験しなかった口上や演者の笑顔も大事だという。大江戸玉すだれでは決めポーズも大事にしていて、「歌舞伎の見得(みえ)と同じ感覚でやってる」と、見立て芸ならではのこだわりを教えてくれた。
 玉すだれを操った感触は今も手に残る。マラソンなど体を動かすのは好きだが、手先の細かい芸はどちらかといえば不得手。この出合いを大切に隠し芸としてこっそり練習を続けようと思う。

◆日本古来の民衆芸能 ルーツ諸説「物売り」や「編竹踊り」

大江戸玉すだれ「しだれ柳」

 南京玉すだれは一般的に、長さ一尺(約三十センチ)の細い竹をすだれ状に編んだもの。一本一本が動くような結び目になっており、伸ばしたり回したりできる。大江戸玉すだれでは五十六本を編み込み、口上に合わせて「鯉(こい)」「しだれ柳」、阿弥陀如来の「後光」「魚釣り竿」「日本橋」などを作るほか、結婚式の余興で新郎新婦らがハート形を作る創作パターンもある。
 ルーツには諸説ある。佃川さんは江戸時代に物売りとしての記録があることから、江戸の庶民文化だったと指摘。その後、明治にかけて大道芸としてはやった際、「唐人阿蘭陀南京無双(とうじんおらんだなんきんむそう)の玉すだれ」の口上が、途中で切れて「南京玉すだれ」になったため、中国伝来ではないと話す。
 一方、神戸市に拠点を置く「日本南京玉すだれ協会」は、富山県南砺市の白山宮に伝わる「編竹(あみたけ)踊り」がルーツだとして、白山宮を発祥の地に認定する。編竹の形状が玉すだれと同じであることが理由だが、民衆の伝統芸能だったため、はっきりした文献は残っていないという。
 中国伝来ではない点では佃川さんと同じ意見で、「南京豆」のように南京と付くと、ハイカラなイメージになった名残から「南京」が残ったと説明する。
 近年は外国人観光客が土産に買い求めたり、高齢者が健康づくりの一環で習ったりするケースが増えていて、プロが使う手作り品以外の商品も人気だ。東京都内の雑貨店やインターネット販売などでは、大きさによって数千~一万円台で販売されている。

「後光」

◆今日の先生

<佃川燕也> 1953年2月25日生まれ。東京都中央区の佃島出身。落語好きが高じて会社員時代の30代から独学で南京玉すだれを学ぶ。93年に「大江戸玉すだれ隊」を旗揚げ。公演やイベント出演などを通じて玉すだれの魅力を発信し続け、「佃川流大江戸玉すだれ」の家元として、全国に約200人の門下生を抱える。2015年、東京・国立能楽堂で狂言とのコラボレーション公演を実施。17年には江戸東京博物館で全国から演者を集めた「玉すだれ博覧会」を主催した。

関連キーワード

PR情報

伝統芸能の新着

記事一覧