<中村雅之 和菓子の芸心>地元の伝説に因んで 「白蔵主」(大阪府堺市・曽呂利)

2020年3月13日 02時00分

イラスト・中村鎭

 歌舞伎で「東海道四谷怪談」を出す時は、東京・四谷の「於岩(おいわ)稲荷」に出演者がお参りに訪れる。これを欠かすと、祟(たた)りがあると言われる。
 災い除(よ)けのためではないが、狂言でも大曲の「釣狐(つりぎつね)」を演じる時、茂山千五郎家などでは、基になった伝説が伝わる大阪・堺の少林寺にある「白蔵主(はくぞうす)稲荷」へお参りする。
 室町時代初期、この寺の塔頭(たっちゅう)に「白蔵主」という住職がいた。白蔵主は、稲荷大明神を厚く信仰していて、竹林で三本足の白狐に出会うと、連れ帰り、大切に飼っていた。この狐は、吉凶を告げたり、盗難を防いだりする不思議な力を持っていたのだった。
 ある日、狐は白蔵主に化けて、狩猟好きの甥(おい)の家を訪ね、殺生の罪深さを語り、戒める。しかし、甥は正体を見破り、好物の鼠(ねずみ)の天ぷらでおびき寄せ、狐を捕まえる、というものだ。伝説をほぼそのままに作られたのが「釣狐」だ。
 小さな寺の門を潜(くぐ)ると、すぐ左手にわずかばかりの竹藪(たけやぶ)がある。そこに「白蔵主」に化けた狐の石像が祀(まつ)られ、前には、それを守るように鋭い表情の狐が対で置かれている。お参りに訪れると、祈祷(きとう)を受け、竹藪に生える細竹を頂いて帰り、狂言を演じる時に杖(つえ)として使う。舞台の成功を祈るお守り代わりだ。
 チンチン電車で四つほど乗った先の停留場の前に、「曽呂利」という和菓子屋の本店がある。ここには、伝説に因(ちな)んで名付けられた「白蔵主」という焼き菓子がある。「白蔵主」に化けた白狐をイメージして、一刷毛(はけ)、スッと白砂糖が塗られた皮を割ると、中からしっとりとした黄身餡(あん)が現れる。(横浜能楽堂芸術監督)
<曽呂利(本店)> 堺市堺区宿屋町西1の1の1。(電)072・238・6504。10個入り1869円。

「白蔵主稲荷」の竹藪は、白蔵主が修行で使った竹杖を突き刺すと生えてきた、という伝説がある

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