「自由診療」から「保険診療」 治療水準は低下しないか 保険適用拡大で前進も<不妊治療>

2020年12月15日 05時50分
 政府が不妊治療の助成制度拡充と、保険適用拡大への道筋を示したことは、妊娠・出産を望みながら経済的な負担を理由に諦めざるを得なかった人たちにとって前進だ。ただ、現行の自由診療から保険適用へと転換した場合、治療水準が低下したり、最適な治療が受けにくくなったりするとの懸念は強い。実効性のある制度を組み立てられるかが焦点になる。(坂田奈央、川田篤志)

◆治療を優先、非正規に「経済的には深刻」

 「助成の所得制限が撤廃されることは非常に助かる」。体外受精などの不妊治療を2年半ほど続ける東京都の福祉職の女性(36)は、政府の決定を歓迎する。
 女性は会社員の夫(37)と共働きで、年収は計1300万円。これまでは「夫婦で730万円未満」の所得制限にかかって助成の対象外だった。不妊治療の開始後、3回妊娠したが、いずれも流産。たびたび仕事を休まざるを得ず、治療を優先して非正規雇用に切り替えるなどしたため「長期化により経済的には深刻」という。

◆保険適用の標準治療法など決定へ

 政府の工程表などによると、来年1月以降は現行の助成制度を拡充し、2回目以降も初回と同じ30万円に増額。これと並行して、日本生殖医学会などが医療機関向けの診療指針策定に着手し、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)の議論を経て、2022年度から保険適用される標準的な治療法や診療報酬などを決める見通しだ。
 女性は保険適用について「スピードがすごく速い」と評価しつつ「一番費用がかかるのは体外受精。ここを適用してもらわないと意味がない」と指摘した。
 助成の対象には、新たに事実婚も加わる方向だが、最終報告には明記されず、課題として残った。

◆「オーダーメード型」治療受けにくくならないか

 保険適用を巡っては、医師の間にも期待と懸念が交錯する。高額な費用負担がネックとなって不妊治療を断念する人を減らせるメリットがある一方、標準的な治療法という「枠」をはめれば、手探りで最も適した治療法を試す「オーダーメード型」の治療が受けにくくなり、患者や医師の選択肢が狭められる恐れもあるからだ。
 不妊治療に詳しい産婦人科医の吉村泰典慶応大名誉教授は「治療を受けるカップルにとって、今より不利益を受けることがないようしないといけない」と強調する。

◆「保険」と「自由」の混合診療の解禁検討を

 多数の治療法がある体外受精や、さらに高度な顕微授精を全て保険適用するのは、安全性や有効性の確認に時間を要するため、吉村氏は「すぐにやるのは拙速で、十分な議論が必要だ」と指摘。22年度以降も当面は助成制度を維持し、保険診療と自由診療扱いの治療法や医薬品の併用を認める「混合診療」の解禁を検討すべきだと提言する。
 田村憲久厚労相は先の臨時国会で、混合診療は検討課題だと認めた。最終報告の工程表にも記載され、保険適用と並行して議論される見込みだ。ただ解禁を確約する文言はなく、結論を出せるかも焦点になる。

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