トランスジェンダーの杉山さん、半生をつづった新刊「元女子高生、パパになる」

2020年12月15日 16時00分

「元女子高生、パパになる」を出版した杉山文野さん=東京都千代田区で

 元女子高校生が2年前、父親になった。出生時とは異なる性を生きるトランスジェンダーの杉山文野さん(39)=東京都新宿区=は、パートナーの女性が杉山さんの友人から精子提供を受けて出産した娘を、わが子として育てている。「法的にも、血のつながりもないけれど、父親であることに引け目はない」。半生をつづった本を出版し、多様な家族の選択肢を示している。(奥野斐)

◆出会い、家族の猛反対、娘を持つまで

 杉山さんは、フェンシングで女子日本代表にもなった元スポーツ選手。2006年にトランスジェンダーであることを公表した著書「ダブルハッピネス」(講談社)を出版。現在は飲食店を経営しながら、講演活動などをしている。毎春、東京・渋谷で開催される、性の多様性を祝うパレードの主催NPO法人「東京レインボープライド」の共同代表理事も務める。
 物心ついた時から女性であることに違和感があり、女子として扱われることや、学校のセーラー服に苦しんだ。「女体の着ぐるみを身につけているような感覚」で嫌だったという。
 そんな杉山さんが、パートナーとの出会いや家族の反対、娘を持つまでの悩みや葛藤を新刊「元女子高生、パパになる」(文芸春秋)でつづった。
 3歳下のパートナーの女性は、家族ぐるみで付き合いがあったピザ店の一人娘だった。しかし、交際を知った女性の両親は猛反対。なぜ、わざわざ性的少数者と交際するのか、などと繰り返し泣かれたという。
 あきらめずに時間をかけて関係を築き、今では娘の世話をしてもらうなど頻繁に行き来できる間柄になった。杉山さんは「お義母さん、お義父さんもトランスジェンダーと交際する娘の親というロールモデルがいなかったと思う。娘が幸せになれないと、悩んだのでは」と振り返る。

◆戸籍は女性「ルールとリアルがちぐはぐ」

 杉山さんは戸籍の性別を男性に変えれば結婚できるが、日本では現状、性別を変えるには生殖機能をなくす手術などが必要だ。「健康な体にメスを入れたくない」と戸籍上、女性のままで、結婚できず、娘との法的なつながりもない。

娘を抱く杉山文野さん(中)とパートナーの女性(左)。笑顔であやすのは松中権さん=昨年(杉山さん提供)

 性別変更の際、手術を必要とする日本の現状は、国際団体から人権侵害だと指摘されている。杉山さんは「ルール(制度)とリアル(実生活)がちぐはぐ。生きづらさを抱える人がいなくなるよう選択肢を増やしてほしい」と求める。

◆渋谷区パートナー制度の裏話も

 杉山さんの親友で、LGBTに関する啓発活動をするゲイの松中ごんさん(44)から精子提供を受けた。パートナーも含めて3人で何度も話し合い、娘を持った。松中さんも保育園の送迎をしたり、週末に公園で遊んだりと日常的に育児に関わっている。
 杉山さんは、渋谷区で5年前に始まった同性パートナーシップ制度の陰の立役者でもある。制度導入に動いた長谷部健区長は、渋谷区議時代に杉山さんと親しくなり、同性カップルに証明書を発行する発想が生まれたという。新刊では、制度ができた裏話も紹介している。
 「子どもを持つことに不安がなかったわけではないけれど、毎日一緒にご飯を食べ、風呂に入って、同じ時間を過ごすうちに親子になると実感している」と杉山さん。「娘はもう、僕にべったり。全ての瞬間がかわいい」と笑みがこぼれた。

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