<備えよ!首都水害>被災地の病院 「受援力」を高めて 外部からの支援、誰が調整するのか

2020年12月18日 07時04分

2年前の西日本豪雨で浸水、孤立した岡山県倉敷市の「まび記念病院」(ピースウィンズ・ジャパン提供)

 荒川と江戸川の同時氾濫などの大規模水害が起きると、東京江東五区で最大約二百五十万人の浸水被害も想定されている。救命や治療を担う医療機関は、地域での連携や外部の支援を受け入れる「受援力」も問われる。災害医療の教訓から浮かぶ備えとは−。
 荒川と隅田川に囲まれた足立区千住。荒川が氾濫すると北千住駅前は最大五メートル以上の浸水が想定される。
 二年前の西日本豪雨で最大で約五メートル浸水し、五十一人が犠牲になったのが岡山県倉敷市真備町(まびちょう)だ。町を囲うように川が流れている地形は足立区と似ている。
 地域の「まび記念病院」も川の決壊で床上三・三メートルが浸水し、一階の非常用電源も水没。停電、断水し、入院患者七十六人を含む三百三十五人が孤立した。
 浸水翌日も復旧せず、村松友義院長(63)は避難を決断。停電で人工透析ができない患者九人はヘリ移送を依頼。電子カルテが使えず病名や薬のメモを手書きで作り、残りの患者らもボートなどで全員救出された。
 被災後、非常用電源は二階に移した。風水害の被害を軽減し、早期復旧や病院機能を維持するBCP(事業継続計画)も策定中だ。村松院長は「患者の命を守るため地域内の病院との連携は不可欠。介護福祉との協力も必要だ」と話す。
 救援に入った非政府組織(NGO)「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」の稲葉基高医師(41)は、昨年の台風15号では千葉県館山市内の病院も支援した。急性期の患者が落ち着いた後も、避難で体調を崩した高齢患者などの対応に追われたという。

昨年8月の九州北部豪雨で避難者にヒアリングする稲葉基高医師=佐賀県大町町で(ピースウィンズ・ジャパン提供)

 災害現場は災害派遣医療チーム(DMAT)など多数の支援チームが入り、発災直後は混乱することもある。そこで問われるのは病院の「受援力」だと、稲葉医師は言う。病院が思考停止や放心状態に陥ると、せっかくの支援を生かせなくなる。「どんな支援を誰が調整するのか、BCPに盛り込むことが大事。自治体も支援を受ける力を高めておくべきだ」と訴える。
 災害拠点病院の浸水対策は最優先だ。荒川氾濫で浸水リスクが想定される都立墨東病院(墨田区)は二〇一七年に水害想定のBCPを策定。電源確保や患者の搬送訓練も行っている。
 浸水想定区域では一般の病院や施設の対策も急務だ。利用者の迅速な避難が必要な「要配慮者利用施設」には避難確保計画の作成が義務付けられているが、国土交通省によると病院や社会福祉施設などの進捗(しんちょく)率は都内で53%。厚生労働省が昨年公表した調査結果では、災害などに備えたBCP策定は全国の病院で25%にとどまる。荒川下流のある区によると、「氾濫が起きるか分からないのに患者を避難させて悪化したらどう責任を取るのか」と戸惑う病院もあるという。
 村松院長は被災の教訓を踏まえて訴える。「危機感が薄く、備えがいかに脆弱(ぜいじゃく)だったかを思い知らされた。救える命を救えなくなってからでは遅いのです」

荒川が氾濫すると、最大5メートル以上の浸水が想定される北千住駅前のCG画像(足立区提供)

◆松尾一郎先生のミニ講座 地域発案型「ひと・まち」づくりを

 昨年の台風19号は箱根で千ミリ、荒川上流の秩父山地では六百ミリが降った。台風の進路がもう少し北に寄っていたら秩父ではさらに大量の雨が降り、荒川は氾濫し首都圏は水没していたかもしれない。浸水域内は約三百万人が居住している。浸水深は最大で九メートルに及び、甚大な被害となる。
 米国では、ハリケーンが被害を及ぼすと予想された場合は、百万人単位の「大規模避難」を行うことが多い。昨年ルイジアナ州で開催されたハリケーン防災会議に参加し、大規模避難が渋滞を起こし被害が拡大したことなど、課題が山積している現状も知った。
 わが国は百万人単位の避難経験はない。台風19号では三万人の避難で混乱した区もあった。コロナ禍も重なり、大規模で密な避難は難しい。もとより避難計画など災害に強い「ひと」づくりだけでは限界がある。
 国土交通省と東京都がこのほど公表した「災害に強い首都『東京』形成ビジョン」は、首都圏の大災害に国と都、区が住民と協働して安心安全な「まち」づくりを目指す。防災の視点を地域づくりに盛り込んでいる点で画期的だ。地域発案型の「ひと・まち」づくりを進めていくべきだ。(防災行動学・東大大学院客員教授)
       ◇
 昨年の台風19号から半年後の今年四月に始まった当連載は今回で終わります。
 文・大沢令
 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

関連キーワード

PR情報

TOKYO発の新着

記事一覧