英国王室と肖像画 ~KING&QUEEN展に寄せて 君塚直隆(関東学院大学教授)

2020年12月18日 14時02分

《ロイヤル・ウィンザー・ロッジでの王室の人々》 ジェームズ・ガン 1950年 油彩/カンヴァス (C)National Portrait Gallery, London

 英国の歴代の王と女王の肖像作品を紹介する展覧会「ロンドン・ナショナル・ポートレートギャラリー所蔵 KING&QUEEN展 -名画で読み解く 英国王室物語-」が、東京・台東区の上野の森美術館で開かれている。英国王室と肖像画の関係について、関東学院大学教授(英国政治外交史、王室研究)の君塚直隆さんに寄稿してもらった。

◆「理想の家族像」時代を超えて

 英国人は肖像画が好きである。なかでも好まれているのが歴代の国王(キング)であり女王(クイーン)だ。しかし実際に画家が君主を前にして絵筆を握るようになったのは、リチャード二世(在位一三七七~九九年)の時代からであり、それほど古い話ではない。無類の鑑識眼を備えたチャールズ一世(在位一六二五~四九年)は、背が低く見栄えのしない自らを大きく見せようと、巨匠ヴァン・ダイクに巨大な肖像画をいくつも描かせた。
 それもヴィクトリア女王(在位一八三七~一九〇一年)の御代になると夫やこどもらと幸せそうな姿で描かせた。それらの肖像画は複製が何万枚とつくられ、十九世紀イギリス中産階級にとっての「理想の家族像」とされて、各家庭に飾られるまでになっていった。
 それから百年後の一九五〇年に描かれたのが、ジェームズ・ガンによるこちらの《ロイヤル・ウィンザー・ロッジでの王室の人々》。ヴィクトリア時代には、女王も夫君も勲章に正装、こどもたちも宮廷服で描かれていたのが、わずか一世紀でこの変わりようである。瀟洒(しょうしゃ)な部屋ではあるが、そこに描かれているのは上層中産階級の家族団らんといった感じである。画面左から、時の国王ジョージ六世(在位一九三六~五二年)、その妻エリザベス王妃、長女エリザベス王女、そして次女マーガレット王女。その三年前に長女エリザベスは結婚し、このときまでに一男一女の子宝にも恵まれていた。
 ウィンザーのロッジは、父がまだヨーク公爵と呼ばれていた時代から住み慣れた、まさに一家にとっての「我が家」なのだ。エリザベス王女も久方ぶりに「里帰り」して父母や妹とくつろいだひとときを過ごすことができたように感じる。
 しかしこのわずか二年後に父ジョージ六世は急逝し、彼女がエリザベス二世(在位一九五二年~)として女王に即位することになろうとは、まだ誰も知る由がなかった。
 ふと画面上部を見るとここにも肖像画が飾られている。チャールズ一世と並ぶ美術の鑑識眼を備えていたジョージ四世(在位一八二〇~三〇年)ではないか。彼自身が寵愛(ちょうあい)したトーマス・ローレンスに描かせ、そののち別の画家により描き直された肖像画である。絵のすぐ下に座るエリザベス王妃が気に入って購入し、いまも王室の収蔵品となっている。
 ジョージ四世自身は、妻とは結婚して早々に不仲になり、一人娘にも先立たれ、とても家庭に恵まれたとは言えない人生であった。姪(めい)のヴィクトリア女王、さらには同じ名前(ジョージ)の子孫の一家は家族愛に包まれた幸せな家庭を築くことができた。このガンの作品は、二十世紀半ばのイギリス国民にとって「理想の家族像」と映ったことであろうが、画面のなかで肖像画となってジョージ六世一家を見守る十九世紀前半のこの王(キング)にとっても、うらやましい理想の家族と映っていたのかもしれない。
     ◇
 本展は上野の森美術館で来年1月11日まで開催。会期中無休。開館時間は午前10時から午後5時(1月1日を除く金曜日は午後8時まで)。入館は閉館の30分前まで。入館料など詳細は公式HP(展覧会名で検索)かハローダイヤル=電03・5777・8600

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