<柳沢協二さんのウオッチ安全保障>「安全な戦争」などない 空論の敵基地攻撃

2020年12月19日 05時50分
 政府は、敵基地攻撃能力の保有についての結論を見送った。一方、来年度予算にはミサイルの長射程化に関する事業が並んでいる。射程を延ばせば敵国内にミサイルを撃ち込むことはできる。今でも敵の防空網を突破できれば、敵国内に爆弾を落とすことができる。だが、敵基地攻撃はそれほど簡単ではない。
 攻めてくる敵や飛来するミサイルの位置は明確だ。敵国内を攻撃する場合、いつ、どこに、何発撃ち込むかを決める詳細な情報と適時の決断が必要だ。日本にはその能力がない。それを米軍に頼れば、米軍の指示で敵地を攻撃することになりかねない。相手が反撃してくることを考えれば、二撃、三撃が可能な航空機やミサイルの数に加え、反撃に耐えて攻撃を貫徹する強固な意志も求められる。つまり、敵地を攻撃することは戦争を意味している。
 政府は、ミサイル長射程化について「隊員の安全を図りながら敵を攻撃するスタンド・オフ能力」と説明している。だが、敵もミサイルの射程を延ばし、電子的に欺瞞するなどの対抗策をとる。「敵の射程と同等の射程でなければ戦えない」というなら理解できるが「こちらだけ安全に戦う」という論理はおかしい。戦争は相互作用であり、自衛隊にとって「安全な戦争」など存在しないのだから。
 仮に自衛隊が安全なら、敵は発進前の基地を狙う。だから、国民にとって安全な戦争もない。その覚悟のない敵基地攻撃論は、空論にすぎない。(寄稿)

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