部長って何だ! 丹羽宇一郎著

2020年12月20日 07時00分

◆「働くとは」コロナ禍に問う
[評]江上剛(作家)

 タイトルが、なんとなく癇(かん)に障るなぁ。「部長って何だ!」と問われても同期入社で部長にまで出世できる人は二、三人だろう。著者は社長にまで昇りつめたからいいけど、大方の人は部長ポストなど視野に入っていない。それなのに「部長って何だ!」と問われても「わかんねぇよ」と言いたくなる。それに今の若者は出世に関心がない。昨年、新入社員に採ったあるアンケートによると、出世なんか「どうでもいい」という答えが多かった。部長になれない、なりたくない私たちに著者は何を伝えたいのか。
 本書は、著者の若手社員時代の話から始まる。そこには「泥のように働く」「家族揃(そろ)っての夕食など考えたこともない」という時代錯誤も甚だしい仕事人間振りがてんこ盛り。なぜこんなに働いたのかと言えば「負けてたまるか」という気概のみ。その結果、著者は課長、部長と順調に出世する。ここでは部長が企業戦略の中核であることが強調される。「取締役会にも、数ばかり多くて役に立たない社外取締役より、部長や課長を陪席させよ」と言う。社外取締役重視の世の中に対するアンチだ。この辺りから本書は俄然(がぜん)、面白くなる。心に刺さる言葉を拾ってみよう。
 人を育てながら会社は育っていく。自分を犠牲にしてでも相手の利益を守る。自分の後任を育てることを常に考える。女性の活躍はトップの責任。部長は部下に夢とビジョンを語れ。認めて任せて褒めれば人材は育つ等など。
 著者は、仕事のために母親の死に目に会えず、子育てにおいても妻に一切協力しなかった。母親も妻も著者の仕事の犠牲者である。しかし仕事一筋の人生は誰かを犠牲にせざるを得ない。犠牲者が出ないような仕事の程度はしれている。これは居直りではなく著者の本心だ。仕事こそ人生。仕事一筋に生き抜いた昭和の男は、コロナ禍で働き方に悩み、迷う私たちに「働くって何だ!」と豪速球をぶつけ、その意味を自分で考えろと迫る。反発しつつ読んでいるうちにもやもやしていた頭の中がスッキリして、心が熱くなってくるから不思議だ。
(講談社現代新書・924円)
1939年生まれ。伊藤忠商事社長、日本郵政取締役などを歴任。元駐中国大使。

◆もう1冊

丹羽宇一郎著『社長って何だ!』(講談社現代新書)

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