ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス 春名幹男著

2020年12月20日 07時00分

◆訴追の背景に「安保利権」
[評]小俣一平(早稲田大大学院講師)

 ロッキード(以下ロ)事件が発覚してまもなく四十五年になる。近年日米関係の秘密文書が徐々に解除され、闇の部分に光が差すようになった。本書はインテリジェンスのエキスパートが、米国立公文書館などから入手した膨大な海外文書や公電、インターネット情報、国内の文献を駆使し、微に入り細を穿(うが)つようにロ疑獄を読み解いている。
 あらためて認識させられたのは、日本の「生殺与奪権」は、敗戦から今日に至るまで米政府に握られ、そこには常に「日米安保体制」があることだ。ロ事件も全てここに帰結する。
 圧巻は、米政府が<田中(角栄元総理)が結果的に訴追されてもかまわない>と判断した理由や、ロ社の日本関係秘密文書六千ページのうち、「Tanaka」と記した証拠文書があるのを承知で二千八百六十ページ分を特捜部に渡した動機の分析だ。
 一つは、米政府が恐れたのは<反米政権が登場すれば、日米安保体制は危うくなり、在日米軍基地の維持も難しくなる>ことで、一人も逮捕されない場合、「日米結託」の事件隠しだと反発を招き、自民党政権が不安定化する。
 二つは、ニクソン、キッシンジャーが、田中の対中国、ソ連、親アラブ外交を嫌悪し、田中自身をも嫌っていた。ここは日米中外交に精通した著者ならではの資料解析と見立てが抜群に面白い。
 三つは、田中以上に米政府が守るべき重要な「安保利権」を裏付けるロ社の残りの秘密文書。巨額の代金の一部が賄賂として右翼の児玉誉士夫(よしお)や政治家の懐に入っていたことが証拠で裏付けられれば、<日米安保体制は危機に瀕(ひん)する、と国務省が恐れた可能性がある>と推察している。
 さらに日米安保の<利権構造を構築し>、これを貪(むさぼ)り続け<無傷で人生を終えた>巨悪として元総理岸信介の名を挙げ検証している。
 トランプの言いなりでF35戦闘機などの大量購入を決めた安倍晋三前総理は、祖父の岸に倣って<安保利権>を貪っているのではとついつい思ってしまった。
(KADOKAWA・2640円)
1946年生まれ。国際ジャーナリスト。『秘密のファイルCIAの対日工作』など。

◆もう1冊

奥山俊宏著『秘密解除 ロッキード事件 田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店)

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