<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (20)親世代の需要はさておき

2020年12月21日 07時28分
 テレビで、アニメの『ドラえもん』をたまたまみて、驚いた。
 両親にこっぴどく叱られたのび太少年が、あんなのは実の親じゃないのではと疑いを抱き、タイムマシンに乗って自分の出生の瞬間を確認しにいくという、原作ではかなり「感動的」な回のアニメ化だった。
 産婦人科で喜びを爆発させ、生まれた我(わ)が子への期待や願いを無防備に語り合う両親をのぞき見し、のび太は赤面し、そっとうなだれる。
 アニメでは、その後が付加されていた。現代の父と母が、現代ののび太とともにベンチに座り、赤ん坊にしたのと同様の愛情のこもった言葉をかけていた。当人には恥ずかしくて言えないし、言わない本音を(時空を超えて)盗み聞きしたところが話の妙味だろうに、直(じか)にベタベタ伝えたら台無しだ! ちょうど公開される映画版が「ドラ泣き」と宣伝しており、それにあわせて感動編をテレビでも放送したのかもしれないが、なんだか白けた。
 ドラえもん好きの編集者に不満を言ったら「今は、親と子供が同じコンテンツを楽しむから、そういう作りになる」演出の是非はどうあれ、作中の親の出番自体、増えるのが当然だ、と。ハッとした。
 中年で『ドラえもん』にチャンネルを合わせて黙ってみてる時点で、文句を言えないか。
 今年は誕生五十周年ということで愛蔵版『100年ドラえもん』が刊行されたがこれも僕のような、かつて耽溺(たんでき)した世代に向けてのものだ。

チョイ役までフォローしているキャラクター索引=『100年ドラえもん』の特典「引くえもん」から

 特典の別冊「引くえもん」をみせてもらって、ちょっと呆(あき)れた。いわば「ドラえもん辞典」なのだが、キャラクター索引の「あ」をみると「アイスを売るお店の人」とか「アメをとられた子」まで載っている。これ自体がドラえもんのひみつ道具でエスカレートさせたような、ギャグになっている。愛蔵版は子供のために残してくれという意味もあるのだろう。科学文明の描かれ方と別に、作中の結婚観・男女観などが二十二世紀までに陳腐化するかもしれないが、古典として残す価値はあるし、「ドラ泣き」とかでなく、こういうギャグの手つきで残していってほしい。

野田宏原作、若松卓宏漫画『恋は世界征服のあとで』 *『月刊少年マガジン』(講談社)で連載中。既刊2巻。

 原作・野田宏、漫画・若松卓宏『恋は世界征服のあとで』は、ゴレンジャーみたいな戦隊グループのリーダーと、悪の組織の女幹部が隠れて交際しているというラブコメだ。特撮の戦隊モノも今は、親世代の需要と子供需要が混ざり合った世界になっているが、今作は戦隊のお約束の踏襲などはあまりなく(むしろいいかげんで)懐古したい世代のことはあまり考えられていない。
 二人とも職業柄(?)体の動きがいいので、恋模様がとても元気に描かれる。初めてオズオズ互いの手を握りあったところを戦隊の仲間にみられると瞬時に、プロレスラーの如(ごと)き手の組みあいで戦ってごまかす。ページを繰るごと「ごまかし」が目まぐるしく発動し、敵対とデレデレとを往還する。結果、心地よい「テンポ」が生じるわけだ。
 女幹部、デス美さんがかわいい。戦場に手作り弁当を持参して(と文字にするだけでバカバカしいのだが)、卵焼きをあーんと食べさせたいと願う。女性キャラの作画がもとより魅力的だが、さらに全力でかわいく描くぞという強い漲(みなぎ)りを感じる。くだらなく、かわいい。それで十分、漫画は価値がある。
 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

手をつなぐ2人。ドクロのかぶり物をしていてもなお、デス美さんのかわいさは伝わる=『恋は世界征服のあとで』1巻から


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