書類、費用、時間…とにかく面倒な転入届 ロンドンから帰ってきて痛感したデジタル後進国ニッポンの現実

2020年12月22日 05時50分
<デジタル後進国 英国赴任から戻ったら (上)帰国で住民登録>
 「なんでそんなに書類が必要なの!?」。ロンドンから今秋帰国した記者は、役所の窓口で日本の市民として復活するため思わぬ苦労を強いられた。政府は21日、デジタル庁設立を盛り込んだ2021年度予算案を閣議決定した。「官民のデジタル化の司令塔」を目指すそうだが、市民の足元からの情報も参考にしてほしい。根はアナログ人間の記者が直面した経験を披露する。(沢田千秋)

ロンドン中心部の特別区カムデンのウェブサイトの画面。転入届はネットで簡単にできるし、費用もかからない

◆国籍すら問われず、ネットで「市民」になれたのに…

 ロンドンに滞在した3年間、一度も「役所」に行く必要はなかった。全てはパソコンから。転入手続きは、行政区のウェブサイトで名前や住所などを登録しただけ。国籍すら問われなかった。銀行口座引き落としの市民税さえ滞りなく払っていれば、役所は「市民」として認めてくれた。
 ところが日本では、市民に復活するまでの道のりは平たんではなかった。

郵送で戸籍謄本を取り寄せる際、決済で使用した郵便小為替。手に入れるためにわざわざ郵便局まで行かないといけない

 「海外からの転入には、帰国後に取得した戸籍謄本と付票が必要です」
 記者は東京都新宿区に住んでいた2017年に渡英。今秋に帰国し千葉市に住み始めた。住民票に登録するため、同市の区役所の窓口で言われた言葉だ。
 住民票がないと銀行口座開設も携帯電話の契約もできなかった。住民票を入手するにはまずは転入届だ。市のサイトで必要な書類を調べ、マイナンバー通知カードとパスポートを持って区役所に行ったのだった。
 後で千葉市のサイトを確認すると「海外からの転入」について「質問と回答」欄に「戸籍が必要」と明記してあった。

◆「窓口に来て」にがく然 コロナ禍で高齢の母に頼むしかなく

 本籍地は四国。地元市役所に「海外からの転入で戸籍謄本と付票がいる」と説明し、郵送申請の手続きを尋ねた。すると今度は手数料は「郵便小為替で支払う」とのこと。人生で一度も見たことのないものだ。
 数日後、さらに地元市役所から電話があった。「現住所を証明できるものがないと、戸籍謄本も付票も送れません」
 頭がクラクラした。「現住所の証明が欲しいから申請しているのに。証明なんてできるわけない」。
 市の担当者は「ならば戸籍筆頭者が窓口に来てほしい」の1点張り。がくぜんとしながら、コロナ禍で高齢の親を外出させることへの不安を感じながらも、母親に行ってもらった。
 2週間かけて、やっと手にした住民票。この手間、非効率にふつふつと疑問が湧いた。「私は日本国籍で確かに新宿にいた。マイナンバー通知カードもある。なぜ、ゼロから存在証明しなければならないのか。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)はどうなっているのか」

◆遠い戸籍デジタル化 マイナンバーとも繋がらず

 答えは総務省住民制度課が教えてくれた。「新宿区に海外への転出届を出した時点で沢田さんの情報は住基ネットから消えました」
 住基ネットへの再登録は日本国籍の確認が必須という。しかも、法務省管轄の戸籍情報は「身分に関わる機微情報」で、自治体間でオンライン検索さえできない仕組みという。
 戸籍事務へのマイナンバー制度の導入などを検討してきた法務省の法制審議会は、昨年2月の答申で戸籍とマイナンバー情報のデータつながりを見送った。
 これは情報漏えいやプライバシー侵害の危険性などから日弁連などの反対意見が根強かったことなどが背景とされる。
 総務省の担当者は「戸籍デジタル化の議論はあるが、国民性や歴史的経緯の検討も重要。欧州は民族の流動性確保のため、国籍を厳しく問わない傾向があるのでしょうか」と解説しながらこう見通した。「血統主義的な日本で、戸籍デジタル化は簡単ではないでしょう」

<略歴>さわだ・ちあき 2001年入社。社会部や特別報道部で事件や東京都政、東日本大震災などを取材。17年から3年間、ロンドン特派員を務め、英国の欧州連合(EU)離脱問題や欧州でのテロなどを取材した

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