上下関係のない新しい職場、自分たちの手で<協同労働・現場から②>

2020年12月23日 05時50分
 東京都新宿区内のオフィスビルの一室で、映像やウェブデザインを制作する株式会社「創造集団440Hz」のメンバー4人が、打ち合わせをしていた。ノートパソコンの画面に映るのは、仕事の進行状況などを説明する日報。その備考欄に、仕事とは関係ない個人の近況や悩み、昨今のコロナ禍に対する思いなどがつづられている。
 「1人1人の報告にみんながコメントし、感想を言い合う。そうやってお互いの考えを尊重し合えば、どう働きたいのかも見えてくる」。石本恵美社長(40)は、備考欄の意義をこう強調した。「働くペースも互いに話し合って決める。働く前に、自分たちが人間らしく生きることがまず大事」

◆「マイノリティーの痛み味わった」

 2010年設立。一風変わった社名は、生まれたての赤ん坊の産声が、国や人種に関係なく「440Hzヘルツ」の音である―との説にちなんだ。創業メンバー4人はすべて、不登校や引きこもりの子らが通うフリースクール「シューレ大学」(現雫穿てきせん大学)の卒業生だ。
 「僕らはみな、一度は死にたいと思い、マイノリティーの痛みを味わった。普通の会社のように上下関係があると、怖くて働けない。だったら自分たちが働きやすい職場をつくろう」。長井たけしさん(44)は、創設時の経緯や思いを振り返る。

◆別会社から転職「恐怖心消えた」

企画の打ち合わせをする「創造集団440Hz」のメンバー=東京都新宿区で

 話し合いを重視する同社の職場環境は、働く人が出資し運営に携わる「協同労働」の働き方を体現する。17年に別の会社から転職した信田風馬さん(38)は「前の会社は『できません』と言える雰囲気もなく、恐怖心があった。今は不安を打ち明けられ、温かい安心感がある」と語る。
 設立当時は、協同労働の組織に法人格を与える法整備がされておらず、株式会社の形を選択。今月4日に成立した労働者協同組合(労協)法があれば、「そちらを選んだ」(長井さん)。労協組合は、3人以上の発起人が届け出を行えば設立できる。NPO法人のように出資規制はなく、企業組合のように官庁の認可が不要で、より簡素な設立が可能だ。組合には法人格が与えられ、社会的信頼を得られやすい利点もある。

◆「働くことをもっと自由で豊かに」

 株式会社で運営する「440」は形式上、石本さんが社長を務めるなどの役割を担うが、取締役の長井さんは「僕はメンバーを取り締まるつもりはない。メンバーの話し合いが第一」と笑った。メンバーのアドバイザー的役割を担う朝倉景樹さん(55)は「生きづらさを抱え、労働からあぶれる人は今後も増える。労協法で仲間同士の創業がしやすくなれば、社会の朗報になるはず」と歓迎する。
 石本さんは言う。「働くことはもっと自由で豊かでいい。私たちの働き方が、働くことに恐怖や困難を感じる人のモデルになればうれしい」(石川智規)
(法律成立で普及が見込まれる協同労働の現場を随時掲載します)

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