袴田さん審理差し戻し 再審理認めぬ決定を最高裁が取り消す

2020年12月23日 21時34分

最高裁の審理差し戻し決定を受け、袴田巌さん(左)に話し掛ける姉秀子さん

 1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で一家4人が殺害された強盗放火殺人事件で死刑が確定した袴田 巌さん(84)=浜松市中区=の第2次再審請求審で、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は、裁判のやり直しを認めなかった東京高裁決定を取り消し、審理を高裁に差し戻す決定をした。犯行時の着衣とされる衣類の血痕について「審理が尽くされていない」と判断した。

 ◆静岡県一家4人強盗殺人 1966年6月30日未明、みそ製造会社専務宅が出火し、焼け跡から家族4人の他殺体が見つかった。県警は同年8月、強盗殺人容疑などで住み込み従業員の袴田巌さんを逮捕。袴田さんは取り調べ終盤に自白したが、公判では一貫して無罪を主張。静岡地裁は68年に死刑判決を言い渡し、80年に最高裁で確定。袴田さんが申し立てた第1次再審請求は、最高裁が2008年3月に特別抗告を棄却し、翌月に姉の秀子さんが第2次再審請求を申し立てた。

◆死刑執行停止決定は維持

 決定は22日付。裁判官5人のうち3人の多数意見。再審開始の方向性は示さず、他の2人は反対意見で「再審を開始すべきだ」とした。死刑と拘置の執行停止を命じた2014年の静岡地裁決定は維持され、袴田さんは今後も社会生活を送ることができる。
 第2次再審請求審では、犯行時の着衣とされる「5点の衣類」に付いた血痕のDNA型が袴田さんと一致するかや、血痕の色の変化が不自然かが争点となった。衣類は事件から1年2カ月後、袴田さんが勤務していたみそ製造会社のみそタンクから見つかった。
 静岡地裁は14年、衣類のDNA型鑑定の結果から、血痕は袴田さんや被害者のものでない可能性があるとして再審開始を決定。袴田さんは釈放された。検察側は即時抗告し東京高裁は18年、鑑定手法を「確立した科学的手法と言えず、信用性は乏しい」として再審開始取り消しを決定。釈放は取り消さなかった。
 今回の最高裁決定はDNA型鑑定の結果について、事件から40年以上が経過していることなどから、「DNAが残っているとしても極めて微量で、劣化している可能性が高い」として証拠価値を否定した。
 その上で、血液のタンパク質はみその糖分に触れると褐色化するとされる化学反応に着目し、「1年以上もみそ漬けにされた着衣に、なぜ赤みのある血痕が残っていたのか」と指摘。衣類がみそに漬けられた時期が袴田さんの逮捕後だったとすれば、「犯人であることに合理的疑いを差し挟む可能性が生じる」とし、「みそ漬けにされた血液の色が、どのような要因で変化するか、専門的知見から調査すべきだ」として審理を高裁に差し戻した。
 斎藤隆博・最高検刑事部長は「主張が認められず誠に遺憾。決定内容を精査し、適切に対処したい」とコメントした。
◇             ◇

◆<解説>裁判官2人は「再審開始すべき」と反対意見

 袴田巌さんの再審請求審の審理を東京高裁に差し戻した最高裁決定は、犯行時の着衣とされる「5点の衣類」の血痕の色に着目し、そもそも袴田さんがみそタンクに隠すことが可能だったのかという原点に立ち戻った。
 裁判官5人は全員、みそに1年以上漬かっていた割に血痕が赤みを帯びていることに違和感を示した。それでも3人の多数意見は、みそ漬けにされた血痕の色の変化について「専門的知見など調査をする必要がある」とし、再審開始決定をためらった。だが、再審を開始すべきだと反対意見を述べた2人は、5点の衣類は「犯行直後でなく発見直前に隠された可能性」があるとし、袴田さんの身柄拘束中に「第3者がみそタンクに隠した可能性がある」とまで踏み込んだ。
 今回の決定は結論の方向性を示しておらず、再審が認められるかは差し戻し審の審理次第となる。最高裁は1975年の「白鳥決定」で、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は、再審にも適用されるべきだとしている。審理を差し戻すのではなく、再審開始を決めるべきだったのではないか。
 事件発生から半世紀が経過し、静岡地裁の再審開始決定からも6年9カ月。せめて高裁は差し戻し審を迅速に進めてほしい。 (山田雄之)

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