【動画あり】世界一の経済大国アメリカに広がる「食の砂漠」 生鮮食品入手できない貧困層

2020年12月24日 19時16分
 世界一の経済大国・米国で、今年末までに国民の6人に1人が健康悪化や飢えに直結する「食料不安」に陥る―。こんな試算が今秋明らかになり、全米に衝撃を与えた。特に新型コロナウイルスの感染拡大による店舗閉鎖や失業者の増加に伴い、貧困層が都市部で生鮮食料品を入手できない「フードデザート(食の砂漠)」の問題が悪化。専門家らは懸念を強めている。(米南部バージニア州リッチモンドで、岩田仲弘、写真も)

◆低所得者が住む地域に食材運ぶトラック

 州都リッチモンドの中心部から北に約8キロ。22日朝、低所得層世帯が多く住む団地に地域の支援団体「FeedMore(もっと食事を、という意味)」のトラックが入ってくると、すでに待ち構えていた約30人の住民から笑みがこぼれた。
 冷凍の丸ごとチキンやハム、ニンジン、ミニトマト、メロンにリンゴ…。新鮮な食材が荷台から次々と降ろされていく。全部で2トン弱。1世帯分に小分けすると10~16キログラムになる。「コロナ以降、生活は一層苦しくなった。1カ月に1回の支援はとてもありがたい」。栄養豊富なクリスマスプレゼントに1人暮らしの無職女性(56)は感謝した。

食料の支給を受ける人たち

 新型ウイルスの感染拡大で、州都をはじめ、州全体で「食の砂漠」化が深刻化している。大型スーパーなどが富裕層の住む郊外に進出し、都市部で自家用車を持たない貧困層が生鮮食料品の少ない雑貨店などでの買い物を強いられる問題はもともとあった。
 新型ウイルスは、そうした店舗も閉鎖に追い込み、職を失った人たちはさらに困窮した生活を余儀なくされている。

◆コロナ感染拡大で食料供給量5割増える

 「FeedMore」幹部のジェフ・ウィルクロウ氏は「(感染が拡大し始めた)4、5月、食料の供給量は5割増えた。(失業などにより)初めてフードバンクを利用する人たちが急増したからだ」と指摘。「その後は減りつつあったが、個々の失業給付が底をつき始め、状況はまた悪化している」と懸念する。
 食料の配布はボランティアの協力で成り立つ。近くの教会ボランティアとして手伝ったヘレナ・ルイスさん(80)は「お互い助け合うのは当然」と、受け付け業務をてきぱきとこなした。ウィルクロウ氏によると、ルイスさんらは「実質的なスタッフ」として欠かせない即戦力。ただ「多くの高齢者が感染を恐れて参加できなくなっている」と、厳しい運営事情も明かした。

食料の支給を受ける人たち

 リッチモンドのこうした実態は全米の縮図でもある。全国各地で、フードバンクの食料支給に人々や自動車が長蛇の列をなす風景はすっかり定着。

◆3億余人の人口のうち5000万人が食料不安に

 米農務省によると昨年、全人口(約3億3000万人)のうち約3520万人が食料不安に直面したが、米最大の食料支援NPO「FeedingAmerica」は、今年末までにほぼ5割増しの5000万人以上まで増加すると予測。国民の6人に1人、子どもに限ると、4人に1人という計算になる。

無料で支給されるメロンやリンゴ

 ウェストバージニア大のラウリ・アンドレス助教(健康政策)は「富裕層はテレワークとなっても外出せずに自宅で(栄養価の高い食品の)宅配サービスを受けられるが、貧困層にはそれができない。宅配などに従事する人たちはやはり貧困層で、感染リスクを冒さないと生活できない」と強調。「パンデミック(世界的大流行)は、米社会の不平等な構造を一層明らかにした」と指摘する。

◆パンデミック、食料安保政策強化の分岐点に

 アンドレス氏と共同で、新型ウイルスが食料不安にもたらす影響を研究するモンタナ州立大のカルメン・B・シャンクス准教授(食料安全保障)は「パンデミックは、米国の食料安全保障政策を抜本的に強化する重要な分岐点となる」と主張する。
 米議会は21日、9000億ドル(約93兆円)規模の新型ウイルスの追加経済対策法案を可決。中には1人最大600ドル(約6万2000円)の現金給付、週300ドルの失業給付の上乗せが盛り込まれている。
 シャンクス氏は、法案を一定程度評価しつつも「食料不安はすでに数十年続いてきた問題だ。必要な食料はあるのに、公平に分配しないという弁解できない社会問題の解決に向け、政府はより持続可能な政策を打ち出す必要がある」と訴える。

 食料不安(FoodInsecurity) 世帯が健康で活動的な生活を送るのに十分な食料を随時、手に入れることができない状態を指す。米農務省は「Hunger(飢え、または空腹)」は「食料不安がもたらす個人の生理的な状態」と定義して食料不安とは区別している。

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