<お道具箱 万華鏡>能の扇 漆喰薄く塗り感染対策

2020年12月25日 07時36分

抗ウイルス作用のある「漆喰京扇子」を持つ福井芳宏さん。能楽扇の「敦盛扇」をアレンジした図案(写真)など約十種類ある

 芸能道具に関わる人も、今年は新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)された一年だった。感染拡大で公演が中止・延期されると、道具の発注もストップするからだ。
 そうした苦境のなか、新しい商品をたくましく生み出した人たちもいた。能の扇の老舗「十松屋(とまつや)福井扇舗」は、まさにそれを実行した店のひとつ。専務取締役の福井芳宏さんに、京都・三条の店で話をきいた。
 扇は、芸能にはなくてはならない道具だ。歌舞伎や日本舞踊、落語、神楽などでも使われる。どれも同じように見えるかもしれないが、能には能専門の扇があり、また能のなかでも、流派によって微妙に形が異なり、開いた扇面の図案も演目ごとに決まりがある。
 ふだんは、定番の扇を粛々と作っているが、コロナ禍の七月半ばに、一般向けのユニークな扇を完成させた。「漆喰(しっくい)を塗った扇なんですよ」と福井さん。扇の店で、いきなり「シックイ」と言われても、ピンとこない。日本家屋などの壁に塗ってある白くて硬い、あの漆喰だというのだ。あんな重いものを扇の裏に?と、ますます謎が深まる。「それでは、ご覧にいれましょう」と、見せてくれたのは、裏面が白のふつうの扇。しかし、この白い部分がミソで、抗ウイルス機能がある漆喰が薄く塗られているのだ。
 この扇は、福井さんが副理事長をつとめる京都扇子団扇(うちわ)商工協同組合で製作された。なんでも、漆喰がウイルスや菌のタンパク質を分解し、不活性化させるという。飛沫(ひまつ)対策に神経をとがらせるご時世にぴったりのアイテムだ。
 「昔は、お扇子越しに何かを見たり、顔を隠して話したりする所作がありました」と福井さん。完成してすぐに、京都の五つの花街にも配ったそうだ。こんな扇なら感染対策も楽しくできそう。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

能の舞台で用いられる「翁(おきな)」の扇


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