<トヨザキが読む!豊﨑由美>王谷晶、女同士の烈しい物語 「鬼婆になりたい」と思うはず

2020年12月28日 07時42分
 イキ(意気・活き・粋)がいいなあ。王谷晶の短編集『完璧じゃない、あたしたち』を読みながらニヤニヤしてしまったのは二〇一八年のことです。二十三パターンの女と女の関係を描いた物語の中から聞こえてくる声の多彩さ、鮮度の良さに圧倒されるだけでなく、物語の中から立ち上がる女同士の光景が、これまで女性に押しつけられてきた価値観を突き崩してくれて痛快きわまりなかったんです。

完璧じゃない、あたしたち ポプラ社・1760円

 その王谷晶の最新作が長編『ババヤガの夜』。主人公は、関東有数規模の暴力団・内樹會(かい)の若頭補佐・柳にケンカの腕を見込まれ、無理やり屋敷に連れ去られた二十二歳の新道依子です。大きくて厚みのあるがっしりした体格で、唯一の趣味が暴力。「お前は天稟(てんぴん)がある」と、祖父からありとあらゆる実戦で使える暴力の技術をたたき込まれたゆえに、たいていの男は素手じゃ相手にならない。柳に拉致される前の大暴れぶりの描写が見事で、一気に依子の魅力に引き込まれること必至です。
 彼女に課せられた仕事は、会長・内樹の娘で短大に通う尚子の運転手兼ボディーガード。お人形さんみたいに白くてきれいで、男が押しつけてくる“お嬢さん”のイメージに固執する尚子と、ケンカ上等の依子のそりが合うはずもなく、最初はぎこちない会話しか交わせないのですが、あることをきっかけに少しずつ心を通わせていくようになります。
 物語が大きく動きだすきっかけは、拷問好きの変態にして尚子の婚約者である宇多川を依子が誤ってのしてしまった一件と、内樹が十年以上執念深く追っている、若頭のマサと駆け落ちした妻の行方の発覚。依子は柳と共に二人を連れ帰ることを命じられるんです。…と、これ以上は何ひとつ明かせません。百三十九ページに用意されている驚愕(きょうがく)の真実は、これから読む皆さんのためのものですから。

ババヤガの夜 河出書房新社・1650円

 ババヤガとはスラヴ民話に出てくる鬼婆(おにばば)のこと。ロシア系の血筋であろう祖母から依子が聞かされた鬼婆の物語は、この小説における大切な屋台骨です。ネタバレと関わるので詳述できないのが隔靴掻痒(そうよう)ですが、『ババヤガの夜』を読んだ女性の多くは「私も鬼婆になりたい」と思うはず。シスターフッドなんて言葉が生ぬるく思えるほど烈(はげ)しい依子と尚子の物語の洗礼を、あなたも受けてください。百三十九ページ以降の展開に胸と瞼(まぶた)を熱くしてください。わたしなんぞが頼まなくてもそうなるのは必然なんではありますが。
<とよざき・ゆみ> 1961年生まれのライター・書評家。「週刊新潮」「婦人公論」などさまざまな媒体に連載を持つ。主な著書に『ガタスタ屋の矜持(きょうじ)』『まるでダメ男じゃん!』『ニッポンの書評』、『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(共著)、『石原慎太郎を読んでみた』(同)など。
 *「トヨザキが読む!」次回は2月8日掲載予定です。

関連キーワード

PR情報