池袋駅前、元路上生活者は今もビッグイシューを売る…「人とつながりを大切にしたいから」
2020年12月29日 06時00分
東京・池袋駅前、寒風吹く中、道行く人に示すよう右手に雑誌を高く掲げる男性がいる。安定した住まいがない人たちの自立を支援する「ビッグイシュー」を売る尾崎辰雄さん(68)だ。国内で販売が始まった2003年から都内で最も長く販売を続けているという。生活保護費で暮らせるが「人とのつながりを大切にしたい」と街中に立つ。(中村真暁)
◆生活保護で1人暮らし
記者は今年10月、休日で出掛けた際、尾崎さんから雑誌を買って知り合いになった。「買わなくてもいい。気楽に声をかけてほしい」。尾崎さんはこう話す。
尾崎さんは13年ごろから約12万円の生活保護費を利用し、練馬区の家賃約5万円、8畳ほどのアパートで1人暮らし。晴れれば毎日午前9時から午後3時すぎまで街頭に立つ。
生活保護費は、雑誌の収入3万―5万円の多くを差し引いて支給されるが「外にいれば嫌なことも気が紛れる。買ってもらい、周囲に支えられて生きていると実感できるから」と笑顔を見せる。
◆仕事、家族、家を失う
愛媛県新宮村(現四国中央市)生まれ。父は幼いころ家を出た。体の弱い母に育てられた。9歳のころ、同県内の養護施設に預けられ、15歳で名古屋市の縫製会社に集団就職。20歳を過ぎて上京し、都内の精密機械の研磨会社や喫茶店、焼き肉店などで働いた。
この店で働いていた女性と20代後半で結婚。娘も生まれたが、妻は別の男性と離れていった。新聞配達や新幹線車両の清掃業といった夜間の仕事に就き、男手一つで子育てしていたが、娘が中学2年になったある日、突然、理由も分からず妻に連れて行かれた。
「落ち込んだ。けど、どうしようもなかった」
約20年前、都内で勤めていた新聞販売店の給与が不払いになり、家賃が払えず住まいを失った。
池袋周辺で、段ボールを風よけにして野宿生活を始めた。炊き出しを受けるのが嫌で、困窮者の支援団体で活動を手伝った。野宿を脱したいと思っていた03年、ビッグイシューの販売が都内で始まると知り、販売者を引き受けた。
◆1冊売れると230円のもうけ
同誌はロンドン発祥で大阪の有限会社が発行する。1冊税込み450円。販売者は最初に10冊を無料で受け取り、その後、1冊220円で仕入れる。1冊売れると230円がもうけになる仕組みだ。
指をさされ笑われたり、野宿者への偏見は感じるが「悪いことは何もしていないし、誰だっていつ困窮するか分からない。気にしていたら何もできないから、極力忘れるようにしてるよ」と明かす。
通りすがりから常連となった客は会社員や主婦などさまざま。昼食に誘われたり、見かけたら手を振ってくれたり、10年来の友人もいる。
◆小学生から「ありがとう」
知り合った小学生の女の子にクリスマスや誕生日にプレゼントをすることもある。お礼でもらった「いつもありがとう」の手紙は宝物だ。
「人間ってお金だけの関係じゃないからね。お客さんと会うことが、唯一の楽しみ」と今日も路上に立つ。
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