<コロナ禍の埼玉2020回顧>(6)演劇 文化の灯、消さない

2020年12月29日 07時16分

稽古場のスタジオ。1時間おきに6カ所ある窓を全て開けて換気していた=さいたま市浦和区で(ミュージカル座提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、演劇やコンサートなど多くの文化・芸術活動が中止や延期に追い込まれた。十月に稽古場で感染が広がり、七十人以上の大規模なクラスター(感染者集団)となった劇団「ミュージカル座」(さいたま市浦和区)は厳しい経営状況に追い込まれる中、新たな発信方法を探っている。
 劇団の稽古場はビル四階にある約八十平方メートルほどの二つのスタジオ。ここに十月四日と六日、役者やスタッフら約九十人が集まった。同月二十〜二十五日に太平洋戦争の沖縄戦を主題にしたミュージカル「ひめゆり」を上演予定で、本番を想定した通し稽古だった。
 新型コロナの影響で劇団は四、五月に三公演を延期し、経営が逼迫(ひっぱく)。四月下旬からクラウドファンディング(CF)で支援を求めたが、その後の作品でも出演者の感染などで延期や中止が相次いだ。それだけに看板作品「ひめゆり」の上演にかける思いは強かった。
 稽古中は全員がマスクかマウスシールドを着け、出演者同士が向き合わないよう顔の位置をずらして演じた。一時間ごとに六カ所の窓を全て開けて十分以上換気し、大型ファンは常時稼働。入室前の手洗い、うがい、検温に加え、機材や小道具、ビル前の飲料自販機のボタンや釣り銭レバーも毎日消毒していた。三十代の女性劇団員は「(対策は)やりすぎるほどやっていた」と振り返る。
 それでも十月七日、通し稽古に両日とも参加し、東京の劇団と掛け持ちしていた男性の新型コロナ感染が分かった。他の参加者も感染が次々と判明。最終的に七十六人まで膨れ上がり、公演は中止せざるをえなかった。経営状況の改善のためにも活動再開を目指すが、感染対策をさらに強化するには費用負担が重く、劇団員の女性は「収支が見合わない」と頭を悩ませる。
 オリジナル作品を中心とした公演で評価が高く、熱心なファンも多いミュージカル座。同じく沖縄戦を扱った朗読劇「女子学徒たちの沖縄戦」をプロデュースした、「俳優座」(東京)の有馬理恵さん(48)は「戦後七十五年の節目に上演できず、無念だったのでは。動き回り、汗も唾も飛ぶミュージカルは相当気を使い大変だったろう」とおもんぱかる。老舗劇団でも経済的に苦しい状況は同じという。俳優座は劇場公演のDVD化などを始めており、有馬さんは「新たな方策を模索するしかない」と話す。
 ミュージカル座も当面、再度のCFや過去の公演映像の有料配信などで運営維持を図ることを検討している。代表のハマナカトオルさんは、「一人または数人で演じられるミュージカルを創作するなど、新たなシステム作りを進める。未来の日本のミュージカルの可能性をさらに広げるために活動したい」とコメント。文化の灯を消さないために、模索を続ける。 (前田朋子)

◆相次ぎ延期や中止 オンライン配信に活路

 政府が二月に出した公演の自粛要請や四月の緊急事態宣言で、音楽や演劇など文化・芸術活動は延期や中止が相次いだ。
 七月には東京・新宿の劇場で大規模なクラスター(感染者集団)が発生。演技や演奏のオンライン配信に活路を見いだすアーティストもいた。
 九月になって入場制限が緩和され、コンサートなど大規模イベントは収容人数の50%まで、映画や演劇など静かに鑑賞する催しは満員での開催も可能になった。しかし、政府は十二月二十三日、東京を中心に来年一月十一日まで大規模イベントの人数制限を再強化する方針を示した。定員一万人以上の会場は原則五千人まで。県も二十五日に同様の決定をした。

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