富裕層に恩恵、格差広げた日銀のETF購入 売却も困難、引くに引けず

2020年12月30日 06時00分
 市場取引で価格が決まる株式を中央銀行が買い支えるという、主要国に例のない政策を日銀が始めて10年がたった。日銀の上場投資信託(ETF)購入は、株式市場をゆがめる以外に、富裕層に恩恵が偏る格差助長の問題もはらむ。だが、「日銀頼み」の市場では売却のそぶりを見せただけで株価下落を招きかねず、日銀は引くに引けない状態だ。(皆川剛)

◆好景気を演出

 「(株価が)続落後なので今日は日銀さん出動です」。今年10月29日。日銀がETFの買い入れ枠の維持を決めた金融政策決定会合の最中に、ネット上にこんな投稿があった。
 株式市場では、午前中に東証株価指数が0・5%程度下がると、午後に日銀がETFを買うとの声もある。買い入れの基準は非公表だが、この日、日銀は713億円を買い入れた。投資家の間では日銀の動きを見越した売買が日常になっている。
 長年日銀の政策を見てきた東短リサーチの加藤出氏は「体温が上がらないからといって、体温計じたいを熱するような政策だ。当然体調は良くならない」と指摘。「長い目でみると、日銀が日本経済の成長力をそいでいる」と批判する。
 株価は本来、企業業績や景気の予測に基づいた投資家の売買動向で上下する。経済の体温計とも言われる理由だが、日銀のETF購入は成長性の乏しい企業の株価も上げてしまう。見た目の好景気は演出できるが、企業の経営改善につながらず、競争も働きにくい。

◆企業間にも不公平感

 格差助長も日銀のETF購入の問題点だ。証券保管振替機構によると、日銀がETF購入を拡大した2013年以来、国内の株の保有者は1300万人強で横ばい。株高の恩恵は、株を保有する富裕層を中心に、一部にとどまる。
 企業の間にも不公平さを生む。株高は資金調達のしやすさや信用力などで上場企業に有利だが、中小企業をはじめとする未上場の企業にはあまり関係ない。
 「買い支えは危機の時期に限れば意味はあったが、一向に達成できない物価目標にこだわり規模を拡大するあまり、格差を広げた面がある」。東京財団政策研究所の小林慶一郎氏はこう説明する。

◆株価暴落すれば国民負担にも

 日銀が保有するETFは取得価格でも35兆円と自己資本の3・6倍に上る。巨額なリスク資産の保有は、値動きがそのまま日銀の財務に影響する。3月に日経平均が一時、1万7000円を割り込んだ際は、民間試算で一時3兆円超の含み損が生じた。
 その後、株価が回復し含み益に転じたが、株価暴落による日銀の財務悪化の懸念は今後もつきまとう。日銀が損失を計上し政府への納付金が減少すると、政府予算の財源も減るので国民負担につながる。日銀が「爆弾」を手放そうとして、売却に転じれば市場の暴落を招き、自らの首を絞めることになりかねない。
 日銀元審議委員の木内登英たかひで氏は「買うのは簡単だが、売るのは難しい。将来は受け皿となる機関を作り、日銀の会計からETFを外す正常化策が必要だろう」と指摘する。

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